リーダーはひとりでなく、大勢いることが重要

――ニューヨークでのウォール街占拠運動やスペインの抗議団体「怒れる人々」が中心となった「15M運動」など、欧米でも資本の論理に抗う動きが広がりを見せました。ただ、いずれも一時的なものに終わりました。こうした運動がうまくいくためには何が必要なのでしょう?

斎藤 リーダーフルな「自治」を育むことです。「リーダーフル」とは水平的運動として知られる「ブラック・ライブズ・マター」の創設者のひとりであるアリシア・ガーザが提唱した言葉です。変革を持続させるためにはレーニンや毛沢東のように突出したリーダーが前衛党のような組織をひとりで指揮するのではだめで、運動に参加する人々の中からたくさんのリーダーが生まれる組織や運動を作っていく必要があるというものです。

斎藤幸平が考える“人新世のリーダー論”。「ボトムアップ型の自治では、カリスマ型のリーダーがひとりではなく、自分の得意分野で自主的に動くことのできる人が大勢いる“リーダーフル”な状態が重要」_3
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――リーダーがたくさんいると、主導権争いが起きて運動や組織が混乱しませんか?

斎藤 ボトムアップ型の自治や社会運動ではリーダーはひとりでなく、自分の得意分野で組織化を進めることのできるリーダーが大勢いることが重要なのです。それでこそ初めて、トップダウン型ではない運動が可能になり、地べたからの民主主義が生まれてくるのです。リーダーフルな運動は党が主導し、指揮する運動とは違います。もちろん、組織を持たない単なる連帯とも異なる新しい社会運動の形態です。それ『コモンの「自治」論』では、「斜め」の関係と呼んでいます。

新しいアイデア、価値観が生まれ、それが社会のコモンセンスになるには多彩な社会運動とリーダーが必要です。思い起こしてください。たとえば、気候変動問題もグレタ・トゥーンベリという少女が新たにリーダーとして運動に加わったことで、これだけ世界から注目されるようになったのです。限られたリーダーが国連などで議論しているだけでは、世界の人々が今のように気候変動問題への危機感を共有することはなかったでしょう。

日本でも、少しずつ、地殻変動は起きています。ひとりの小さな一歩が、別の人の背中を押すことになる。「下から」の「自治」は、もう始まっているのです。

取材/集英社オンライン編集部 写真/五十嵐和博 shutterstock

前編〈斎藤幸平〉人新世の複合危機をどう乗り越えるか? “知らないうちに決まっている”社会からの脱却に必要なもの

コモンの「自治」論
著者:斎藤 幸平 著者:松本 卓也 著者:白井 聡 著者:松村 圭一郎
著者:岸本 聡子 著者:木村 あや 著者:藤原 辰史
斎藤幸平が考える“人新世のリーダー論”。「ボトムアップ型の自治では、カリスマ型のリーダーがひとりではなく、自分の得意分野で自主的に動くことのできる人が大勢いる“リーダーフル”な状態が重要」_5
2023年8月25日発売
1,870円(税込)
四六判/288ページ
ISBN:978-4-08-737001-0
【『人新世の「資本論」』、次なる実践へ! 斎藤幸平、渾身のプロジェクト】
戦争、インフレ、気候変動。資本主義がもたらした環境危機や経済格差で「人新世」の複合危機が始まった。
国々も人々も、生存をかけて過剰に競争をし、そのせいでさらに分断が拡がっている。
崖っぷちの資本主義と民主主義。
この危機を乗り越えるには、破壊された「コモン」(共有財・公共財)を再生し、その管理に市民が参画していくなかで、「自治」の力を育てていくしかない。  
 
『人新世の「資本論」』の斎藤幸平をはじめ、時代を背負う気鋭の論客や実務家が集結。
危機のさなかに、未来を拓く実践の書。

【目次】
●はじめに:今、なぜ〈コモン〉の「自治」なのか?  斎藤幸平
第1章:大学における「自治」の危機 白井 聡
第2章:資本主義で「自治」は可能か?
──店がともに生きる拠点になる 松村圭一郎
第3章:〈コモン〉と〈ケア〉のミュニシパリズムへ 岸本聡子
第4章:武器としての市民科学を 木村あや
第5章:精神医療とその周辺から「自治」を考える 松本卓也
第6章:食と農から始まる「自治」
──権藤成卿自治論の批判の先に 藤原辰史
第7章:「自治」の力を耕す、〈コモン〉の現場 斎藤幸平
●おわりに:どろくさく、面倒で、ややこしい「自治」のために 松本卓也
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人新世の「資本論」
斎藤 幸平
斎藤幸平が考える“人新世のリーダー論”。「ボトムアップ型の自治では、カリスマ型のリーダーがひとりではなく、自分の得意分野で自主的に動くことのできる人が大勢いる“リーダーフル”な状態が重要」_4
2020年9月17日発売
1,122円(税込)
新書判/384ページ
ISBN:978-4-08-721135-1

【「新書大賞2021」受賞作!】
人類の経済活動が地球を破壊する「人新世」=環境危機の時代。
気候変動を放置すれば、この社会は野蛮状態に陥るだろう。
それを阻止するには資本主義の際限なき利潤追求を止めなければならないが、資本主義を捨てた文明に繁栄などありうるのか。
いや、危機の解決策はある。
ヒントは、著者が発掘した晩期マルクスの思想の中に眠っていた。
世界的に注目を浴びる俊英が、豊かな未来社会への道筋を具体的に描きだす!
【各界が絶賛!】
■佐藤優氏(作家)
斎藤は、ピケティを超えた。これぞ、真の「21世紀の資本論」である。
■ヤマザキマリ氏(漫画家・文筆家)
経済力が振るう無慈悲な暴力に泣き寝入りをせず、未来を逞しく生きる知恵と力を養いたいのであれば、本書は間違いなく力強い支えとなる。
■白井聡氏(政治学者)
理論と実践の、この見事な結合に刮目せよ。
■坂本龍一氏(音楽家)
気候危機をとめ、生活を豊かにし、余暇を増やし、格差もなくなる、そんな社会が可能だとしたら?
■水野和夫氏(経済学者)
資本主義を終わらせれば、豊かな社会がやってくる。だが、資本主義を止めなければ、歴史が終わる。常識を破る、衝撃の名著だ。

【おもな内容】
はじめに――SDGsは「大衆のアヘン」である!
第1章:気候変動と帝国的生活様式
気候変動が文明を危機に/フロンティアの消滅―市場と環境の二重の限界にぶつかる資本主義
第2章:気候ケインズ主義の限界
二酸化炭素排出と経済成長は切り離せない
第3章:資本主義システムでの脱成長を撃つ
なぜ資本主義では脱成長は不可能なのか
第4章:「人新世」のマルクス
地球を〈コモン〉として管理する/〈コモン〉を再建するためのコミュニズム/新解釈! 進歩史観を捨てた晩年のマルクス
第5章:加速主義という現実逃避
生産力至上主義が生んだ幻想/資本の「包摂」によって無力になる私たち
第6章:欠乏の資本主義、潤沢なコミュニズム
貧しさの原因は資本主義
第7章:脱成長コミュニズムが世界を救う
コロナ禍も「人新世」の産物/脱成長コミュニズムとは何か
第8章 気候正義という「梃子」
グローバル・サウスから世界へ
おわりに――歴史を終わらせないために
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