やっぱり格闘技と大型犬が好き

スー 『実母と義母』を読んでいて、物事って考え方ひとつでどうにでも振り落とせるってことも感じました。ほんとは直情的に泣いたり怒ったりしたい。だけど、それをすると何もかも破綻するとわかっているから、自分の中で何とか解釈をうまく組み立てて、無理にでも腑に落として前へ進んでいく、というような。それを村井さんはされているんじゃないかなって。

村井 ほんとにそうです。私の場合、それを覚えたのは、兄が急死して部屋と遺品の整理をしたとき。そして今、義母の介護もです。誰かがしないとならない状況で、どうにもならなくて、それならもう自分がしよう! って。

スー その感じ、私もわかります。きっと誰に対してとかじゃなく、自分との約束みたいなものなんじゃないかな。「私はちゃんとしていたい」「私だけはちゃんとするぞ」という。

村井 格闘技が好きなのも、きっとそこなんですよ。格闘技してる人って、究極なまでに鍛えて体を絞っていく。その精神的な強さに憧れるんです。私もこうありたい、じゃないけど。

スー そう! 私たちが格闘技を好きなのは偶然じゃないですね。

村井 認知症が進んで、大切なものを忘れていく義母を日々見ていると、自分もいつかはこうなるのかな……と怖くなります。私にどうすることもできなくなったら彼女は特養(特別養護老人ホーム)に行くしかないのだけど、私がいつか特養に入るときは、パソコン持っていけるかな、とか、そこにWi-Fi入るかなとか、そんなことを考えちゃったりして。

【村井理子×ジェーン・スー】「親の顔以外の父母のことがわからない」近くて遠い家族との過去、現在、未来_7

スー 私たちには「書く」という排出方法があって、本当に運がよかった。このシステムがなかったら、たぶん私は……人を呪ったり悪口言いまくったり、嫌な人間になってたと思います。

村井 私は生きていけなかった、たぶん。

スー 書くと客体化できるというか、一度外に出すことで自分の中とは切り離して眺めることができるんですよね。誰かのために書いているんじゃなくて、私は、猫が毛玉を吐くように、毛づくろいしてはゲーッて吐き出してる感じです。とくに親のことに関しては。でもね、村井さんはいいですよ、大型犬を飼ってるんだもん。東京のマンション暮らしには絶対できない。

村井 私もまさか自分がラブラドールを飼うとは思ってなかったのだけど、たまたま巡り会ったんです。最初は小さくて、あんなに大きくなるとは思ってなかった(笑)。今もきっと階段のところで私の帰りを待っていてくれてると思います。

スー いいなあ、大型犬! いつかぜひ会いに行きたいです。

村井 ぜひいらしてください!   

  (了)


構成・文/菊池亜希子
撮影/馬場わかな
ヘアメイク(ジェーン・スーさん)/藤原リカ(Three PEACE)
取材協力/市川康久(agehasprings)

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 逃げたいときもあった。妻であることから、母であることから……。

 夫を亡くしたあと、癌で逝った実母と、高齢の夫と暮らす認知症急速進行中の義母。
「ふたりの母」の生きざまを通してままならない家族関係を活写するエッセイ。

 婚約者として挨拶した日に、義母から投げかけられた衝撃の言葉(「義母のことが怖かった」)、実母と対面したあとの義母の態度が一気に軟化した理由(「結婚式をめぐる嫁姑の一騎打ち」)、喫茶店を経営し働き通しだった実母の本音(「祖父の代から続くアルコールの歴史」)、出産時期と子どもの人数を義父母に問われ続ける戸惑い(「最大級のトラウマの出産と地獄の産後」)、義母の習い事教室の後継を強いられる苦痛(「兄の遺品は四十五年前に母が描いた油絵」)など全14章で構成。

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