実母に裏切られる絶望の深さ
スー 「傷つき」と「怒り」のセットは私もよくわかるんですけど、一線を越えると本当にどうにもならないものがありますよね。
村井 長年の積み重ねだから、複雑過ぎて言葉にするのは難しいけど、一つ挙げるなら、母と兄は、二人で私の悪口を言って盛り上がるのが好きでした。
スー それ、読んでて苦しかったです。お母さまとお兄さまは好き同士だけど、お互い、信用できないし頼りにもならないとわかってる。でも、一緒にいないと生きていけない。だから理子さんという仮想敵を作って、そこを攻撃して茶化して明日に命を繋いでいく、という……。「ちゃんとしろ!」ですよ、まったく。
村井 昔からずっとそうだったけど、どんどんエスカレートしていきました。「あの子はきつい」とか「偉そうで、威張ってて、何様なのかしらね」とか。
スー ウチの父も私によく言いますよ、「おまえはきつい。かわいげがない」って。
村井 最後の最後、母が末期がんだと知って、驚いて静岡の実家に駆けつけたら、兄は、母ががんと知ってすぐ東北に引っ越してしまっていて、母はひとりでいたんです。信じられなかった。怒ってる余裕もなく、すぐにかかりつけ医と今後の治療について話したり、入院の手はずを整えたり、母が少しでも心地よく療養できるように手を尽くしました。こんな状態になるまで気づけなくて可哀そうだったな……とかいろんな思いを抱えながら、それこそ必死でした。できることをすべてして、やっとの思いで滋賀の自宅に帰宅したところに兄が電話をかけてきて、「やっぱり理子はかわいげがない。やることだけやってスタスタ帰っていったわって、母ちゃん、言ってたぞ」ってゲラゲラ笑うんですよ。そのとき、もうダメだ……と力が抜けました。
スー ……それ、お母さまとお兄さまの劣等感なんじゃないかな。理子さんがいないと家が回らないことは重々承知していて、自分たちにその能力がないこともわかってる。だけど、それを認めると何かが崩壊してしまうから、理子さんを一緒に攻撃して、茶化して押さえつける――。
村井 わからないけど、当時は、それが何なのかなんて考えたくもなかった。これ以上二人に関わったら私がおかしくなると思って、母からも兄からも距離を置きました。兄は、母が病気とわかった途端に置き去りにして遠くに引っ越したのに、それでも母は息子(兄)がかわいくて仕方ないんですね。自分は死にそうなのに、兄の宮城の借家の連帯保証人になってくれと、私に泣きながら電話してきました。
スー ほんと、何なんでしょうね。私も今、わかったようなこと言っちゃいましたけど、親のことって他人から何か言われると、「あなたに何がわかるの?」って思うんですよ。「大変でしたね」と言われても、ましてや悪く言われると、なおさらそう思う。だから、これに関してはどこまでも孤独。それだけはよくわかります。
村井 そう、本当に孤独。そして、わからない。どういう感情なのかも複雑すぎて、母が亡くなって何年も経つのにいまだにわからないんです。だから書いたのかもしれない。書き切ることしか私にはできないから。今、義理の母の介護をしていますが、なぜ義母の面倒は見れて、実の母にはできなかったのかと考えることもやっぱりあります。ほんとわからない。同時に、単純に、どうしてこんなに私をいじめた人の面倒を私は見てるんだろう……とも思います。