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終末期と知らされずに最期を迎えた患者の姿

——中村先生は在宅医として、これまで数多くの患者さんを看取ってこられました。その中で印象的だったエピソードは何でしょうか。

私の原点ともいえるのは、研修医時代に会った末期の膵臓がん患者さんです。

その方は39歳で、終末期のがんであることは知らされておらず、毎週病院で溜まった腹水を抜いて仕事にでかけるような状態でした。

彼に「仕事に行くのはつらくないですか?」と聞いたところ、「働いてお金を貯めて、元気になったら妻を海外旅行に連れていきたいんだ」と。しかし会社に通えるギリギリまで働いたのち入院し、近場の旅行さえ行けないまま、亡くなりました。

彼は最期が迫ったことを知ったときに「もう旅行に連れて行くことはできないんだ」と悟ったと思います。「もっと早く知りたかった」とも思ったかもしれません。そんな彼の心中を思うと無念で仕方なく、今でも思い出すと涙がこぼれます。

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とはいえ、彼に告知をしなかった家族が悪いわけではありません。病気との向き合い方や終末期の過ごし方は人それぞれです。私は在宅医で、在宅医療の選択肢はすべての方に知っていただきたいと思いますが、病院でしか受けられない治療もありますし、病院医療と在宅医療の選択もそれぞれだと思っています。

自分が自分らしく最期まで過ごせるよう、ぜひ一度、自分にとって「幸せな最期」とは何かを考えてみていただきたいです。また親がご存命であれば、親にとっての「幸せな最期」を聞き、それに対して自分がどのような対応ができるかを検討してほしいということです。