財政をわかっていない財務省
田村 本当は、財務省も財政をわかっていません。
初めて財務省のバランスシートをつくったのが髙橋(洋一)さん(*1)で、それで髙橋さんは財務省の裏まで知ってしまうわけです。東大法学部だらけの財務官僚の世界にあって、彼は数学科卒という異色の官僚です。誰よりも数字に強い。
*1 元財務官僚。東京大学理学部数学科卒業、学位は博士(政策研究)。安倍晋三内閣では経済政策のブレーン、菅義偉内閣でも内閣官房参与(経済・財政政策担当)を務めた。大阪維新の会のブレーンでもあった。
企業ではバランスシートは当たり前ですが、財務省はおかしなところで、その発想がない。あったのは家計簿の発想でしかありません。
財務省は家計簿式に勘定するから、予算を使ってしまったから手持ちのカネが減る、だから、支出を減らせ、収入の範囲内に支出を抑え、借金はするなということになってしまいます。
家計は働き手の収入が限られており、将来の収入増の見通しは不たしかで、逆に減る可能性が大きい。したがって、カネは貯めても、先行投資には躊躇します。
国家財政は家計とはまったく違います。
先行投資ができるのです。インフラや研究、教育、さらに防衛装備など、将来に備える出費はすべて先行投資で、国家の財務としては資産に計上されます。
例えば投資して土地を取得すれば、それは資産に計上すべきものです。この先行投資を支えるのが国債発行で、負債の部に計上されます。
資産と負債が同額になるのがバランスシートです。政府に、家計、企業を総合した国家全体としてのバランスシートを考えてみましょう。
政府の負債、即ち国債の9割以上は国内で消化され、大半は金融機関が引き受けます。金融機関は預金や各種保険料収入で成り立つので、謂わば家計が国債を資産として保有します。
つまり、政府の負債は家計にとっての資産です。家計の資産が増えることは豊かになることを意味します。要するに誰かが借金しないと、国民は豊かになれないのです。
日本の場合、経済が順調に成長している時代は企業が借金しましたが、成長率の低迷が長期化するようになってからは企業が借金しようとしない。
その代わりに政府が借金を増やしているのです。
財務省のブリーフィングに頼る日本のメディアは、政府債務が膨れて大変だと騒ぎますが、問題は政府債務残高の大きさではありません。
先行投資されて形成される資産が収益を生むことです。
インフラ整備、基礎研究、教育のいずれもが将来の経済の成長をもたらします。防衛も国と国民の安全を確保し、成長基盤となるのです。
成長は国民の所得を大きくし、税収を増やします。
この結果、国債の元利払いが行われ、金融機関に収益をもたらします。政府や国会の責任は、政府による先行投資が経済成長や安全を着実に実現できるかどうかであり、官僚は財務省に限らずその効率性に責任を負うのです。
石橋 簡潔でわかりやすい説明をありがとうございます。
話を戻しますが、髙橋さんはバランスシートをつくってみて、「日本はメチャクチャ黒字じゃないか」ということに気がついてしまった。
そういう彼を、財務省は省内の主流ではない郵政民営化のようなシンドイ仕事ばかりやらせる。
主流から遠ざけられている、という気持ちが髙橋さんにもあったと思います。
田村 髙橋さんにバランスシートをつくらせた当時の次官は、財務省にとってたいへんな過ちを犯してしまったと思います。