暴動と差別が生み出す「分断」と「憎悪」の連鎖

こうしたガザ住民への暴力と蹂躙が広く報道され、世界中のイスラム社会でイスラエル批判の声が高まっていたが、今回の病院爆発のニュースで、それがさらに一気に拡大した。エジプト、ヨルダン、バーレーンなど、イスラエルと国交のあるアラブ諸国ではイスラエル大使館前での抗議行動が起き、一部に暴動のような動きもあった。レバノンやトルコでもイスラエル批判デモの一部が暴徒化した。さらに欧米のイスラム社会でもイスラエル批判デモが頻発している。

10月17日、ヨルダン川西岸のナブルス市中心部で、戦争反対のプラカードを掲げるパレスチナ女性たち 写真/共同通信
10月17日、ヨルダン川西岸のナブルス市中心部で、戦争反対のプラカードを掲げるパレスチナ女性たち 写真/共同通信
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今後、イスラエル軍が地上侵攻に出るのは時間の問題とみられ、さらに犠牲者の数が劇的に急増することが予想される。そうなれば、世界各地でイスラエル批判デモがさらに先鋭化し、暴動も頻発するだろう。また、こうした熱気を受けて、IS(イスラム国)の衰退でしばらく低迷していた非組織的なテロもいずれ起こる可能性が高い。しかも、この危険な熱気はしばらく流行のように継続すると推察できる。

さらに危険なことは、仮に各地のイスラム社会で暴動やテロのような動きが発生した場合、逆にイスラム教徒を差別する暴力が蔓延しかねないことだ。そうした両側の先鋭的な熱気がしばらく蔓延した場合、各地で刻まれる社会の「分断」の傷跡は深いものになるだろう。

西側社会と対立するロシア、中国、イランなどはそうした分断を扇動する。そうした社会不安をいかに食いとめるか。各国の政府とメディアには冷静な対応が求められている。

文/黒井文太郎

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