「俳句と作詞は、 実は似ている」堀本裕樹×児玉雨子『才人と俳人 俳句交換句ッ記』対談_1
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「俳句と作詞は、 実は似ている」堀本裕樹×児玉雨子『才人と俳人 俳句交換句ッ記』対談_2
才人と俳人 俳句交換句ッ記
著者:堀本 裕樹
定価:1,650円(10%税込

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俳人の堀本裕樹さんと、作詞家で小説家の児玉雨子さんの初めての顔合わせ。
堀本さんは『才人と俳人 俳句交換句ッ記』を、児玉さんは『江戸POP道中文字栗毛』を上梓したばかり。
『才人と俳人〜』は、芸人で作家の又吉直樹さんや料理研究家の土井善晴さん、俳優の小林聡美さん、作家の川上弘美さんなど28人の才人に、テーマとなる季語を使った俳句とエッセイを書いてもらい、それに堀本さんが触発されてまた俳句とエッセイで返すという、交換日記的な趣向の本。
『江戸POP〜』は児玉さんが大好きな近世文芸をポップな視線でフォーカスし、読み解いたニューウェイヴエッセイ集。
どちらも近世に生まれた文芸をテーマにした本ということで、今回の対談が実現しました。
『才人と俳人〜』の28人には児玉さんも含まれており、『江戸POP〜』では松尾芭蕉(まつおばしょう)や俳諧史についてのチャプターも設けられています。
俳人と才人の二人が語る、俳句や近世文芸の面白さとは?

撮影/上澤友香 構成/綿貫あかね

初期の芭蕉の句はイケイケでパンク

――まずは、『才人と俳人 俳句交換句ッ記』に児玉雨子さんが参加されたきっかけから教えてください。

児玉 『才人と俳人〜』に参加できて嬉しいです。この本の元になった雑誌「青春と読書」の連載時に声をかけていただいてすぐにお引き受けしました。
堀本 ありがとうございます。児玉さんにお願いして、ほんとによかったです。
児玉 一冊にまとまるということでゲラを送っていただいたのですが、他の方々の俳句とエッセイが面白くて全部読んでしまいました。特に最果タヒさんの句にぐっときましたし、武井壮さんの句はいかにも武井さんなのがツボにハマりました。あと、堀本さんが各句の解説のエッセイを書いてくださっている構成も、読者には親しみやすそうです。
堀本 嬉しいです。本にも書きましたが、児玉さんが水道橋博士との対談動画で、松尾芭蕉の「狂句木枯(こがらし)の身は竹斎(ちくさい)に似たる哉(かな)」を紹介していてびっくりしたんです。よく知られた句ではなかったのと、さらにその句について熱く語っておられたのがとても印象的で。本気の情熱を感じました。これはぜひお願いしたいと。
児玉 芭蕉の初期の句が大好きなんです。動画では「ヒップホップみたいでかっこいい」と説明しました。
堀本 なぜ「狂句」という出だしで始まるのか、「竹斎」とは誰なのかなど、この句が踏まえている背景を理解していくと、さらに句意が明確になり、深いところに入っていけますよね。
児玉 ちょっとハイコンテクストな感じです。
堀本 芭蕉って、もう少し時代を経てくるとだんだん枯れてきて、枯淡の境地というか、いい感じの侘(わ)び寂(さ)びへと変化してくる。けれどこの句の頃はまだまだ尖ったところがあって。
児玉 イケイケというか「やったるで!」みたいな勢いがあります。学校で習う芭蕉の名句は、後期になってからの円熟したものが多いのですが、学生の頃に初期の『冬の日』(一六八四年成立の俳諧の撰集)を読んだら、すごく面白くて。
「こんな俺だけどよろしく」みたいな言葉が、発句(ほっく)(俳諧の第一句)として成立することに衝撃を受けて、パンクな人だったんだなと。俳句ってこういうのでもいいんだと思えました。
堀本 芭蕉は貞門(ていもん)俳諧(松永貞徳(まつながていとく)を中心とした江戸前期の俳諧の流派)から始まって、談林(だんりん)(西山宗因(にしやまそういん)を中心とした俳諧の流派)に入り、侘び寂びの蕉風(しょうふう)に至る。教科書に載っているのは『おくのほそ道』など蕉風に入ってから詠まれた句なので、それまでの試行錯誤や破天荒をやってきた句を知らない人が多い。
 児玉さんが初期の芭蕉の句に面白さを感じて、語り直すのは意義があり、素敵だなと思ったんです。
児玉 ありがとうございます。それまでは古典の面白さがわかりませんでしたが、芭蕉の初期の句を知って、古典も教科書に載っている完成された作品より、そこに至るまでの道のりに俄然興味がわいてきて。
『江戸POP道中文字栗毛』に載せた作品も、それを意識して選びました。
堀本 『江戸POP〜』も、児玉さんが江戸庶民の文芸を現代社会に照らし合わせながら、今の言葉で語り直していますよね。児玉さんの文章のビートがこの一冊の中に流れていて、心地よかったです。
 そしてまた『才人と俳人〜』の児玉さんの句「橙(だいだい)が群青(ぐんじょう)に落ち葉は宙ぶらりん」も、笑い飛ばす内容ではないけれど、調べとしては談林調が感じられました。

「俳句と作詞は、 実は似ている」堀本裕樹×児玉雨子『才人と俳人 俳句交換句ッ記』対談_3
児玉雨子『江戸POP道中文字栗毛』
定価1650円(税込) 集英社・発売中