社畜=現代版の家畜

だがバブル崩壊後、1990年代に入ると日本社会の様相は徐々に変わっていく。エコノミックアニマルから一転して、家畜ならぬ「社畜」という俗語が広く普及し始めたのもこの頃だ。

「会社+家畜」を語源に持つこの俗語は、サービス残業も転勤もいとわずに働く会社人間をバカにする意味合いを持つ。エコノミックアニマルという言葉を使うのは海外のビジネスパーソンだったが、社畜は労働者本人が自分の労働環境を自虐的に表す言葉として「ブラック企業」と同様に広まった。

社畜=「現代版の家畜」と表現してもいいかもしれない。

モーレツに働いて高度経済成長期を支えたエコノミックアニマルは当人たちにとってはポジティブな意味合いを持ち、社畜というネガティブな言葉とはベクトルが真逆に思えるかもしれない。

「男は働き女は家を守る」…選択式夫婦別姓や同性婚に反対する自民党議員の大半はいまだにこの昭和の伝統的家族観の幻影に取り憑かれている_3
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だが、自らの権利から目を背けて満員電車ですし詰めにされ、組織のために歯車になる状態を継続させることは、やはり家畜的な「自主性の放棄」という点で選ぶところがない。

SNSでの誹謗中傷は自己家畜化がもたらした弊害
なぜアメリカを恨まない? 日本人の特殊な国民性
日本人の家畜化を後押しし続ける日本の公教育


文/池田清彦
写真/shutterstock

『自己家畜化する日本人』
池田 清彦
「男は働き女は家を守る」…選択式夫婦別姓や同性婚に反対する自民党議員の大半はいまだにこの昭和の伝統的家族観の幻影に取り憑かれている_4
2023/10/2
¥1,012
208ページ
ISBN:978-4396116880
「ホンマでっか!?TV」出演の生物学者による痛快批評!! 

家畜化の先に待つ阿鼻叫喚の未来

一部のオオカミが、進んで人間とともに暮らすことで食性や形質、性格を変化させ、温和で従順なイヌへと進化してきた過程を自己家畜化という。そして、この自己家畜化という進化の道を、動物だけでなく人間も歩んでいる。

本書は自己家畜化をキーワードに、現代日本で進む危機的な状況に警鐘を鳴らす。生物学や人類学、心理学の知見を駆使して社会を見ることで、世界でも例を見ない速度で凋落する日本人の精神状態が明らかになる。

南海トラフ大地震といった自然災害の脅威が迫り、生成AI、ゲノム編集技術といった新しいテクノロジーが急速に普及する今、日本人に待ち受ける未来とは――。 

第1章 「自己家畜化」の進化史
「自己家畜化」とはなにか/ウシやブタは人間によって家畜化された/狩猟採集民が肉をあえて食べ残していた理由/人類のゴミに目をつけたオオカミ/イヌと人類のWin-Winな関係 ほか
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