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家族のいないホームレス

国内でホームレス同士が結婚したという事例は、私の知っている限り皆無だ。ホームレス生活から脱した後に結婚することはあるが、ホームレスをしている最中に同じホームレスの異性と結婚するといったことは聞いたことすらない。

理由の一つは、ホームレスにおける男女比だろう。途上国では路上生活者に占める男女比はほとんど変わらないが、日本のホームレスには圧倒的な差がある。公式な統計を見れば下図のようになる。つまり、男性二三人に対して女性は一人しかいないのだ。

なぜ日本でホームレス同士の結婚はないのか? 性別・年齢・結婚歴から見るホームレスになりやすいタイプとは_1
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どうして日本には女性ホームレスが少ないのか。それは女性の方が生活保護などの福祉制度に引っかかったり、お金がなくても男性に手を差し伸べてもらえたりすることがあるためだ。

具体的に考えてみよう。もし二十代の健康な独身男性が失業しても、新たに仕事を探しなさいと言われて生活保護の申請を却下されるだろう。しかし、同じ二十代の女性が小さな子供がいる状態で困窮していれば、「子供の生活と人権を守る」という名目によって生活保護の申請が簡単に通る。子供がいることで、福祉の恩恵を受けやすくなるのだ。

女性が一度福祉につながれば、その先も継続して支援を受けられる。担当のケースワーカーが日常の様々なことで相談に乗ってくれるし、奨学金や諸手当などの情報も入手しやすい。シェルター、母子生活支援施設、シェアハウスなど女性の住居を保護する事業も多い。そのため、子供が独立した後も、彼女たちは福祉に頼っていける。

また、歓迎すべきことではないが、女性には性を提供することによって住居を手に入れるという道もある。二十代の男性なら、失業して貯金がなくなれば、路上で寝起きするしかなくなるだろう。だが女性なら、SNSやマッチングアプリで知り合った男のもとに身をゆだねることができる。そこにいろんな種類のリスクがあるものの、ホームレスになるリスクは軽減される。こうしたことが、二三対一という比率を生んでいるのである。