家賃滞納の強制執行、気になるいくつかの疑問点

ここからは、家賃滞納の強制執行の現場においての疑問点を聞いていきたい。

まずは債務者である住人側のリアクションは、どういったパターンがあるのかは気になるところだ。

「大半の債務者は、明け渡しを命じる判決が確定したときや、執行官が家に来たときにあきらめてすんなり退去に応じます。ただ、もちろん素直に応じない人もおり、たとえば泣きながら情に訴えかけようとするような債務者もいます。とはいえ、多くの執行官は泣きつかれたところで動じず、粛々となすべきことを遂行していくと思います。

ほかには、逆ギレをして悪態をついたり暴れたりする債務者もいます。そのように住人が反抗してきた場合、執行官は抵抗を排除するために“威力”を用いることもできますが、例えば相手の身体を拘束するといったことはできません。ですから、あまりに住人の抵抗が激しい場合などは警察に協力を要請することもあります。

また、ごく稀にですが、明け渡しの家に開錠して入っていくと、ゴミ屋敷状態になっていて、ひどい臭気が漂っているというケースや、債務者の住人が亡くなられているというケースもあるようです」

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“動産差し押さえ”で気になることもある。執行官は現場で高価な物はどのように見極めているのであろうか?

「現場で物の価値を見極めることはしていると思います。美術品や絵画、高級アンティーク家具などは本当に価値がある物なのか見極めることが難しく、見識も必要となるため、執行官はある程度そういった勉強もされているのかもしれません。また、差し押さえる動産の選択は執行官の裁量に任せられますが、どの程度差し押さえるかは、建物内の動産の数量、どのような物があるのか、申立人の債権額との関係を踏まえて、差押えられることとなると思います。

動産を差し押さえる際は、『標目票』という紙を貼り付けて、差し押さえた物と分かるようにします。債務者が差し押さえられたくないからといって『標目票』を勝手に剥がすと、封印等破棄罪という罪に問われる場合があります」

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一方、その現場にあるにもかかわらず、“動産差し押さえ”ができないものもあるそうだ。

「債務者の住人が生活に欠くことができない衣服や台所用品や家具・家電といった生活必需品、あとは現金の場合、66万円以下の金銭は、『差し押さえ禁止財産』という扱いになるので差し押さえることができません。

また、その場で立ち会っている住人が高価そうな時計やアクセサリーを身に着けていたとしても、無理やり押さえつけて奪い取って差し押さえるということもできません。もちろん交渉の結果、素直に応じて差し出してくれれば差し押さえることができますが、それを強要することはできないというわけです」

家賃滞納して強制執行されてしまった住人側にもさまざまな事情はあるのだろうが、強制執行を行う執行官側にも悲喜こもごもの“ドラマ”があるようだ。

取材・文/逢ヶ瀬十吾(A4studio)