シリーズ屈指の名曲「愛はすべてをこえて」
『007/スペクター』の時点で、本作が『女王陛下の007』をバージョン・アップさせた作品であることは明白だったが、続編の『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』ではそのことを堂々と正面に打ち出して描き始めた。
007シリーズ全25作品のうち、ボンドが(偽装ではなく)結婚式を挙げるのは『女王陛下の007』のトレイシーだけ。ボンドが愛の結晶としての子供を持つのは『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』のマドレーヌとだけだ。悲劇的結末で終わるというのも、実はシリーズ全体を通じてこの2作品だけである。
両作品とも悲劇の前に、ボンドとマドレーヌとの束の間の幸せな時間が描かれるが、『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』では、そのことが『女王陛下の007』のテーマ曲だった「愛はすべてをこえて」(ルイ・アームストロング)をBGMで流すことで布石が打たれている。
この曲はシリーズ屈指の名曲で、『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』のエンドクレジットでも52年ぶりに使われている。同じ曲を使用したのはシリーズ初のことだ。
両作品の中でボンドが発する最後の言葉も実はまったく同じで、この曲の原題となっている“We have all the time in the world”という台詞なのだ。
ほかにも、『女王陛下の007』のタイトル・シークエンスで使われた海の神ポセイドンの三又槍が、『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』でボンドの居場所をモニターで示すアイコンとして使われていたり、細かなトリビュートは他にもある。
公開時はなかなか評価されなかった『女王陛下の007』だが、今ではアクションやユーモアに優れた、もっともボンドらしい作品としてリスペクトされている名作だ。ぜひ、その醍醐味を劇場で確認してほしい。
文/谷川建司
<BOND60 007 4Kレストア 10作品 上映作品一覧>
第1弾 9月22日(金)〜
■『007/ゴールデンアイ GoldenEye』1995年/ピアース・ブロスナン
■『007は二度死ぬ You Only Live Twice』1967年/ショーン・コネリー
■『007/私を愛したスパイ The Spy Who Loved Me』1977年/ロジャー・ムーア
■『007/ロシアより愛をこめて From Russia with Love』1963年/ショーン・コネリー
■『女王陛下の007 On Her Majesty's Secret Service』1969年/ジョージ・レーゼンビー
第2弾 11月17日(金)〜
■『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ No Time to Die』2021年/ダニエル・クレイグ
■『007/スカイフォール Skyfall』2012年/ダニエル・クレイグ
■『007/リビング・デイライツ The Living Daylights』1987年/ティモシー・ダルトン
■『007/サンダーボール作戦 Thunderball』1965年/ショーン・コネリー
■『007/ドクター・ノオ Dr. No』1962年/ショーン・コネリー
※上映劇場が変更となる場合がありますので、鑑賞の前に必ず劇場にご確認ください。
https://eigakan.org/theaterpage/schedule.php?t=cQkXFvH7