ウイルスを用い、世界征服を目論んだ悪役の野望

クレイグ版5作品は基本的にすべて話が続いているが、『007/スペクター』『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』の2作品は、ボンドの宿敵ブロフェルドとの闘いが具体的に描かれた二部作なので、ここでは両作品を合わせて考えたい。

まずひとつ目のポイントは、悪役が目論む野望だ。

第4作『007/サンダーボール作戦』(1964)までに描かれるブロフェルドは、犯罪組織スペクターの首領として、手下の悪党たちを操る影の存在だった。初めて画面に登場したのは第5作『007は二度死ぬ』(1965)で、それ以降は毎回、さまざまな手法で世界征服をたくらんでいる。

たとえば、アメリカの宇宙船を巨大ロケットで拿捕して米ソ間に疑心暗鬼を生じさせ漁夫の利を得たり(『007は二度死ぬ』)、宇宙空間に打ち上げた巨大なレーザー光線発射装置で世界の軍事バランスを壊したり(第7作『007/ダイヤモンドは永遠に』(1971))、といった具合だ。

こういった大掛かりなSF的設定に対し、『女王陛下の007』ではもっと現実的な陰謀が描かれた。ブロフェルド(テリー・サヴァラス)は、動物を永久に不妊化させ、植物を中性化させるウィルスを開発。洗脳した若い女性たちを使ってそれを世界中にばらまくことで、自身の力を誇示しようとしたのだ。

『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』のブロフェルド(クリストフ・ヴァルツ)もまた、ロシア人細菌学者に開発させたウイルスにより世界征服を企む点で同じ。さらに、ブロフェルドの組織に恨みを持つ別の悪役サフィン(ラミ・マレック)が、そのウイルスを使ってブロフェルドと組織構成員たちを殲滅。サフィンが代わりに世界を支配しようとする、という捻りが加えられていた。

新型コロナウイルスの世界的な蔓延により公開が1年半延びた(2021年10月公開)同作品だが、兵器としてのウイルス開発が現実に起こり得ることを人々が実感する中、ブロフェルドの世界征服の野望の設定は見事なほどリアルだったし、それを半世紀以上前に先取りしていた『女王陛下の007』もスゴイ。