中学生になって気づいた家庭環境の異常さ
こうした母子2人の生活は5年ほどつづいた。学年が上がるにつれて、周りの友達から衣服が汚いことでいじめられたり、自分の母親が他の大人と違うことに気づいたりするうちに、聡子は自分の家庭環境に疑問を抱くようになっていく。
中学へ入学してしばらくして、聡子はこの家から逃げ出すことを決意する。決定的だったのは、家でほとんど食事をとらないことを知った担任の教師が、「それは普通の生活じゃない」と指摘したことだった。聡子は直接言葉にされたことで、心の中のモヤモヤが形になった。
聡子が助けを求めたのは、別れて暮らしていた父親だった。父親は思い当たるふしがあったらしく、すぐに駆けつけてくれた。すると部屋に充満する悪臭も含めて信じがたい状況ばかりだったため、その日のうちに聡子を引き取ることにした。
ただ、母親のほうはこうした事態に至ってもなお、自分は何も悪いことをしていないと言い張り、聡子を取り返そうとした。自分が抱えている問題に無自覚だったのだろう。父親は仕方なく母親の実家や児童相談所に間に入ってもらい、説得をくり返した末に、ようやく親権を取り戻すことを認めさせたという。
聡子は次のように話していた。
「中学生くらいになってやっと世間の常識がわかってきて、自分の置かれている状態を客観的に見ることができるようになりました。その時に父というSOSを出す相手がいたのは幸運でした。もし母がシングルで私を産んでたりしたら、たぶんいつまでも離れられなかったと思います。そしたら共倒れしていたんじゃないでしょうか」