そんな時代に、世界で初めて描写されたそんなコンピュータワールドで何が起きるかと言えば。手柄を雇用主の社長に横取りされたゲームプログラマーが仕返しを企むも社長に全部筒抜けで、「お前のような奴はコンピュータの中に入ってしまえ!」と、森羅万象をデータに変換してしまう光線…そんな技術があればゲームでガッポリ金儲けだけじゃなくて、もっと色々できるんじゃないかって思える…で、ようこそ涅槃の世界へ。
あとはプログラムの自由と人類の未来を守るために、次から次へと襲いかかるゲームに命懸けで挑み勝利するのです。ウェンディ・カーロスが奏でるアナログシンセサウンドも相まって、凄いデジタルな内容をアナログで描き切る力技は、すべてがデジタルな現在見ても、劣化することなく輝いているんですよね。
現実世界からコンピュータの世界に転送された人間の主人公が、擬人化したプログラムたちとともに悪のオペレーションシステム、マスターコントロールプログラムと闘うなんて内容。30年以上経った今の視点からも、コンピュータやネットワークの概念がちゃんと描かれていて、ありがちな“みんなどうせわからないからわかりやすくしちゃえ”的な省略や曲解がないんですよ。昔何をしているかわからなかった人間プログラムの行動とか、今になってやっとわかったりするんですな。
とはいえ最後はコンピュータに理解できないのはラブ、計算不可能な愛の力でラスボス自壊という何万回もコスってきた結末になるんです。
この映画は「ディズニープラス」でのちに作られた続編やシリーズと差別化するために『トロン・オリジナル』なるタイトルがつけられて絶賛配信中です。
『トロン』に限ってはそんなことないと信じたいけど、お願いだから消さないでね。
んでもって『ブラックホール』と新しい『ウィロー』も復活してください〜っ!
あと『ジェフ・ゴールドブラムの世界探求』(2019~)も!
文/樋口真嗣
トロン Tron (1982) 上映時間:1時間36分 アメリカ
監督・脚本:スティーヴン・リズバーガー
出演:ジェフ・ブリッジズ、ブルース・ボックスライトナー、デヴィッド・ワーナー、シンディ・モーガン他©Everett Collection/アフロ WALT DISNEY
コンピュータ(ゲーム)の世界に入り込んでしまうという、現在ではよくある設定をほぼ初めて映像化したSF映画。CGは初期の単純なものながら、クリエイターたちのセンスあふれる使い方とアナログ手法との併用で、洗練され、今でも十分鑑賞に堪えるクオリティを達成している。