広島、巨人のエースを待っていた第3の人生

食べ物は、お米も野菜も魚も果物も全て美味しい。

ノドグロ、マツバガニなど東京では高級な食材も地元では激安だ。さらには牛肉も、全国的に見て鳥取和牛は肉質ナンバーワンと言われている。実は鳥取は古くから和牛の産地として知られ、全国各地のブランド牛の始祖になっているのも、鳥取の種雄牛(しゅゆうぎゅう)なのだ。

広島・巨人で活躍した左のエースはなぜ60歳を過ぎて故郷・鳥取での地方移住を決意したのか?_2
鳥取を代表する冬の味覚「松葉ガニ」

これだけ美味しい食事をとりながら、生活費は都内の3分の1もかからない。

問題は、都内に残した仕事だった。シーズン中は野球の解説が月に数回あり、雑誌への執筆等もある。はたして移住しても、これらの仕事には支障は出ないだろうか。けれどそれも杞憂だった。鳥取に来てみれば空港まで車で10分。駐車場も格安だ。そこから飛行機に乗り込めば、約2時間後には都心を歩いている。

たとえば千葉にあるZOZOマリンスタジアムまでは、川崎市の自宅からは車で往復3時間かかっていた。ところがいまではナイターの仕事が終わってから都内で一泊し、翌日の早朝6時台の飛行機に乗れば8時台には自宅に戻ることができる。すぐに身支度すれば、遊びにも行けるし、後述するように田んぼに出ることもできる。

もちろん交通費と宿泊費はかかるけれど、満員電車や車の渋滞でストレスを感じることもない。

「これならほとんど問題はないな」

川口氏がそう思うようになるまでに、それほど時間はかからなかった。ほどなくして、発想は逆転していた。

「なぜいままで都心で暮らしていたんだろう? 鳥取のほうが生活しやすいのに」

こうして母の葬儀から11か月後の2021年10月、2人は鳥取市内に大きな駐車場のある中古住宅を買って、鳥取県民になった。

それは川口氏にとって、第3の人生だという。18歳以前の故郷で暮らした第1の人生と、社会人、プロ野球選手、解説者として都心で暮らした第2の人生。そして還暦を過ぎてからの第3の人生。