信念がなければ義勇兵はできない
私も前線取材で着用している7.62mm弾を防ぐレベル4の防弾プレートにこのような使い道があることを初めて知ったが試してみようとは思わない。こうして3日間のポジションでの任務はネズミ撃退の戦果も追加された。初めての実戦の感想を聞くと
「戦闘に関してそれほど恐怖感はありませんでしたが、ネズミの体液から変な病気に感染しないかが不安になりました」
ロシア軍は戦死した兵士の遺体を放置していると聞いているが、その屍肉を食べてネズミが増えているのかもしれず、疫病も蔓延している可能性もあるので、恐怖以外に他ならない。
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ロシアによるウクライナ侵攻が始まって以来、現地でさまざまな国籍の義勇兵と出会った。彼らの多くは、「戦争で命を脅かされている人たちを助けたい」と口にしており、その信念に偽りはない。一方で、部隊で生活をともにし、少しずつ彼らの心の内にある話を聞くと、その多くは母国での平穏な日常生活にやりがいや居場所を見つけられず、悶々としていた者が多いということに気づく。
では彼らは戦場に死に場所を求めに来たのか。答えは否だと思う。
彼らは決して“自殺願望者”ではない。
「死ぬかもしれない」という状況下で自分の能力を試したいというのが本音ではないだろうか。そしてそれが人助けに繋がるならば、戦場で命を落としたり怪我をしても本望なのかもしれない。
「有名になりたい」という安直な動機で義勇兵になった目立ちたがり屋の多くは長続きせず、脱走してウクライナを早々に去った。
やはり、強い信念がなければ砲弾が絶えず降り注ぎ、雨でずぶ濡れになりネズミが徘徊する塹壕での生活には耐えられない。
現在、ウクライナ軍による反転攻勢が継続中だが、防御を固めたロシア軍は激しい抵抗をみせている。戦争はさらなる長期化を免れないだろう。ウクライナに侵攻したロシア軍を追い出して人々に平穏を取り戻したいという信念で、部隊からの給料で愛する息子の養育費を支払い続けるケンさんは今日も任務に励んでいる。
#1 命の対価ともいうべき初任給は7万円…3歳の息子を日本に残して軍歴なしでウクライナ軍に入隊した45歳の日本人義勇兵の肖像
取材・文・撮影/横田徹