自分が株主にならないと生き残れない時代へ

――これは国民にとって相当な打撃ですよね。

とりわけ生鮮食品の値上がりには驚かされます。過去10年間では約31%の価格上昇、コロナ禍前の3年前と比較しても約11%上昇しています。

先刻、13カ月間で8万円近く国民一人当たりの収入が目減りしていることを申し上げました。いったいその8万円近くはどこへ流れていったのでしょうか。これは大づかみに言うと2つあって、1つは、海外に流れています。もう1つは、“価格転嫁”に成功した日本企業に、です。

日本人の実質賃金はこの1年間で約8万円も減少していた! インフレ下、国民の8万円はどこに消えたのか?_3
熊野氏(撮影/堀田力丸)
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――日本企業に流れているならば、その企業は賃上げしてもいいのではないでしょうか。

それは企業ごとに方針が違うでしょうから何とも言えませんが、賃上げで取り戻せないならば、われわれは“配当”で取り返すしかない。つまり自分が“株主”になるしか方法はないのです。同様に海外に流れてしまったものについては、外国株、外貨の運用で取り戻すしかないでしょう。

例えば、高いモノを日本に売っている外国企業の株を買うのもひとつの手立てでしょう。個別株ではリスクが高いということであれば、米国10年物国債の購入でしょうか。確定利回りで3.6%ありますから。米国債でも2年物であれば、4.2~4.4%くらいは付きます。

今回の拙著のタイトル『インフレ課税と闘う!』の「闘う」には、少なからず私の思い入れが込められています。われわれは流れて行った損を、“自力”で取り返すしかないのです。そのためには、一般的には個人投資家として、運用で頑張るしかない。加えてリスクヘッジとして外貨だけでなく、ようやく日の目を見はじめた日本株の運用も選択肢に入れるべきだろうと考えています。

自分が投資家としてのメリットを得る……それがフローの部分で高いモノを買わされて損をしている自分を防衛する策になると考える次第です。

――今後は、事の推移をただボーッと漫然と傍観しているだけでは損ばかり被る時代に突入した、ということですね。

そうですね。たとえば労働組合側が経営陣を「頼りにする」とか「信じる」とか、はたまた給料が上がるのを「待っている」というようなことは、もう止めるべきなんです。その上で、あの手この手で、ついては自分でさまざまな手段を講じておかないと生き残ってはいけません。勤める会社だけを信じて働けば報われると思っていると、割り負けリスクに晒される。卵をひとつの籠に盛ってはいけないのです。

文/熊野英生 写真/shutterstock

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インフレ課税と闘う!
熊野 英生
日本人の実質賃金はこの1年間で約8万円も減少していた! インフレ下、国民の8万円はどこに消えたのか?_4
2023年5月26日発売
1,980円(税込)
四六判/344ページ
ISBN:978-4-08-786138-9
もはやインフレは止まらない!
これからの日本経済、私たちの生活はどうなる?

コロナ禍やウクライナ戦争を経て、世界経済の循環は滞り、エネルギー価格などが高騰した結果、世界中でインフレが日常化している。2022年からアメリカでは、8%を超えるインフレが続き、米国の0%だった金利は5%を超えるまでになろうとしている。世界経済のフェーズが完全に変わった!

30年以上、ずっとデフレが続いた日本も例外ではなく、ここ数年来、上昇してきた土地やマンションなどの不動産ばかりでなく、石油や天然ガスなどのエネルギー価格が高騰したため、まずは電気料金が上がった。さらに円安でも打撃を受け、輸入食品ばかりではく、今や日常の生鮮食品などの物価がぐんぐん上がりだした。2021年までのデフレモードはすっかり変わり、あらゆるものが値上げされ、家計にダメージが直撃した。

これからは、「物価は上昇するもの」というインフレ前提で、家計をやりくりし、財産も守っていかなければならない。一方、物価の上昇ほどには、給与所得は上がらず、しかもインフレからは逃れられないことから、これはまさに「インフレ課税」とも言えるだろう。

昨今の円安は、海外シフトを進めてきた日本の企業にとってもはや有利とは言えず、エネルギーや食料品の輸入が多い日本にとっては、ダメージの方が大きい。日本の経済力も、かつてGDPが世界2位であったことが夢のようで、衰退の方向に向かっている。日銀の総裁も植田総裁に変わったが、この金融緩和状況はしばらく続きそうだと言われている。

しかし日本経済が、大きな転換点に直面していることは疑いもない。国家破綻などありえないと言われてきたが、果たして本当にそうなのか?
これから日本経済はどう変わっていくのか? そんななかで、私たちはどのように働き、財産を築いていくべきなのか?
個人の防衛手段として外貨投資や、副業のすすめなど、具体的な対処法や、価値観の切り替えなども指南する、著者渾身の一冊!
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