「ちょっと待てよ」という視点が、非常に大事

ただ、これらのいろんな要素を考えて分析をしていこうと思うんですけれども、いまの時点では、これがこうなるだろうというような予測はなかなか言えないという状況ですね。

ここで私は、ひじょうにある意味、断定的なものの言い方を、つまりいわゆる西洋のディスクールで聞かれるような考え方とは少しズレたところでかなり断定的な言い方をしているわけなんですけれども、それというのも、実は西洋でのディスクールというものがひじょうに偏っているので、私のものの言い方もひじょうにエクストリーム(過激)になるというか、断定的な言い方になってしまうというようなことがあると思います。

全体のコーパス、つまりいろんな議論に関する分析やディスクール、議論の全体を見たときに、そのなかにおけるマジョリティーがどのようなものなのか、そのマジョリティーの人が何を言っているのかということを鑑みたうえでの、私のこのものの言い方というのがあるわけです。

ウクライナ支援のために日本や韓国、ドイツという「保護国」に頼りすぎるアメリカ。その背後に潜むドイツに介入する可能性_3
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西洋では、プーチンはモンスターだとか、一方でアメリカは自由の擁護者だといったような意見というのは、どこでも誰でも、いま読める話です。みなが目にする話なんです。

私の意見というのはマイノリティーなんですけれども、誰からも何かを奪うような意見でもないわけです。私は、意見の多様性、多元性というものを擁護したいという観点がひじょうに重要だと思っています。

池上 トッドさん自身は、「ちょっと断定的な言い方をしますが」とか、あるいは「アメリカフォビアというのは、ちょっと冗談めかしていますけど」とかいうように、ちょっと保留をしつつも、やはりこういうウクライナ戦争のような出来事というのは多様な見方が本当に必要なことだと思うんですね。

メディアが極めて一方的に伝えているなかで、「ちょっと待てよ」という、そういう視点が、非常に大事であると。そのときに極めて知的レベルの高いトッドさんの視点というのが、大変参考になるなと感じます。これからのこのウクライナ戦争を見ていくうえで、とても大事な視点だなというふうに思いました。


文/エマニュエル・ドット、池上彰

#1『第3次世界大戦はすでに始まっている…ロシアへの経済制裁はアメリカにむしろマイナスに効き、ウクライナ戦争から抜け出せなくなっている』はこちら

#3『なぜ、ウクライナ戦争でロシアが勝者になる可能性があるのか「この争いは単なる軍事的な衝突ではなく、価値観の戦争でもあります」グローバルサウスの国々は“むしろロシアに近い”と言われるワケ』はこちら

『問題はロシアより、むしろアメリカだ 第三次世界大戦に突入した世界』 (朝日新書) 
エマニュエル・トッド (著)、池上 彰 (著)、 大野 舞 (通訳)
ウクライナ支援のために日本や韓国、ドイツという「保護国」に頼りすぎるアメリカ。その背後に潜むドイツに介入する可能性_4
2023/6/13
869円
200ページ
ISBN:978-4022952233
ウクライナ戦争について、メディアで飛び交うさまざまな言説とは異なる新たなる視点。
「こんなことを話すのは、今日が初めてです」(エマニュエル・トッド)
「新たな視座を獲得するでしょう」(池上彰)

世界の頭脳であるフランス人人口学者のエマニュエル・トッド氏と、ジャーナリストの池上彰氏による初対談本。
なぜウクライナ戦争は起きたのか、いまだ終わりの見えない戦争の行方、長らく1強の覇権国家として君臨してきたアメリカの弱体化、それによって多極化、多様化していく世界をどう生きていけばいいのかーー。G7を含めた西側諸国がもはや少数派となる中で、日本の進むべき道とは? 全3日間にわたる白熱対談!
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