見えない同調圧力としての「性別による社会的役割の幻」

先に紹介した「ハフポスト」のインタビューで、原野守弘は自身が手がけた別の広告企画についても、意図や問題意識を説明していました。

それは、2016年7月21日から8月3日(一部地域では7月27日)までテレビで放映されたPOLAという化粧品会社のテレビCMで、「この国は、女性にとって発展途上国だ。」という冒頭のナレーションも含めて大きな反響を呼び起こしました。

映像に映し出されるのは、会社に勤める女性社員たちの姿。コピー機の前に立つ女性。会議が終わった後にテーブルに残った(男性社員たちの)コーヒーの飲みさしを片づける女性。洗面台の前でうつむく女性。オフィスの椅子に座って、大きなお腹を撫でる妊娠中の女性。でも、多くのテレビコマーシャルと違い、登場する女性たちはみんな無表情です。

そんな映像に、次のようなナレーションが重なります。

「この国は、女性にとって発展途上国だ。
限られたチャンス、
立ちはだかるアンフェア。
かつての常識はただのしがらみになっている。
それが私には不自由だ。
迷うな、惑わされるな。
大切なことは、私自身が知っている。
これからだ、私。」

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この国には、幻の女性が住んでいる

このCMは、POLAの店頭販売員を募集するための広告でしたが、会社の中で女性社員が「女性だから」というだけで特定の役割を押し付けられているのも、性差別であるのと同時に、集団内での同調圧力だと言えます。

原野はこのインタビューで「この企画の出発点には、作り手である僕の個人的なジェンダー意識がありました」と語り、男女格差を示すジェンダーギャップ指数で世界一四四か国中一一四位(当時)という順位を自分たちにとって「恥ずべき状況」と捉え、

「今より女性差別が少ない社会を少しでも予感させることができたら」と、制作の意図を説明しました。

このCMには、同じく原野が制作した第二弾があり、第一弾と同様に「女性に与えられた社会的役割」を淡々と行う女性の映像と共に、「この国には、幻の女性が住んでいる」というナレーションで受け手に問題が提起されました。

「誰かの〝そうあるべき〟が重なって、いつのまにか私が私の鎖になりそうになる。
縛るな。縛られるな。」