バレンタインにチョコを贈るのは「義務」なのか?

それから2年後の2020年2月12日、朝日新聞(ネット版)は「『義理チョコやめよう』賛否呼んだ広告、ゴディバの真意」と題した記事を公開しました。

ゴディバの「日本は、義理チョコをやめよう。」という広告が日本社会に巻き起こしたさまざまな議論について、多面的に振り返るという内容構成でしたが、その記事ではゴディバジャパンのシュシャン社長もインタビューを受けて、広告の意図についてこう話していました。

「元々日本は贈り物で相手に尊敬や感謝の気持ちを表してきた文化があり、『義理』という言葉にも深い意味がある。でも最近の義理チョコは良い意味での日本らしさが消え『must do(やらなくちゃいけない)』『duty(義務)』になっているのではないか」

「ギフトをやめようではなく、ギフト本来の意味を考えてほしくて問題提起したのです」

三世紀のローマに実在した司教、聖バレンタイン(ウァレンティヌス)の命日である2月14日を「バレンタインの日(バレンタインズ・デー)」と呼んで、恋人や家族が花やカード、菓子などを贈る習慣は、欧米などのキリスト教の国々から始まったものですが、バレンタインデーの贈り物が「女性から男性へ贈るチョコレート」に特化しているのは、日本とその影響を受けた韓国ぐらいだそうです。

この朝日新聞の記事で、テンプル大学ジャパンキャンパスの堀口佐知子上級准教授(文化人類学)は「義理チョコという文化は日本独特のもの」と指摘しています。

外国人が理解できない「義理チョコ」という同調圧力…バレンタインが「女性から男性へ贈るチョコ」に特化しているのは日本と韓国ぐらい。消えない、性別による社会的役割_2

日本でバレンタインデーを始めたモロゾフ

同記事によれば、バレンタインデーにチョコレートを贈るという習慣を日本で始めたのは、神戸の洋菓子店「モロゾフ」でした。第二次世界大戦より前の1932年に発行した商品カタログで、当時の経営者が外国の習慣(イギリスでは十九世紀にバレンタインデーのプレゼントとしてチョコレートが商品化)を参考にして、「バレンタインの愛の贈物」としてチョコレートを提案していました。

そして、「働く女性が職場の同僚や上司に渡す『義理チョコ』」の風習が日本社会で広がったのは、1980年代頃だと同記事は書いています。

この「義理チョコ」については、読者の方々も実際にいろんな経験をされたかと思いますが、本当はそんなことをしたくないのに、女性社員だからという理由で、社内の同じ部署の男性社員や上司の男性幹部に、バレンタインの日にチョコレートをあげることを強いられてしまう、というのは、典型的とも言える同調圧力です。

中には、それによってコミュニケーションが円滑になるなら別にかまわない、という女性もおられるでしょうが、それはあくまで「厚意」で許すということであり、明文化されていない制度に女性社員が従わされる図式は、客観的に見ても理不尽です。正社員ではない(つまり給料の低い)派遣社員の女性までもが、義理チョコで余計な出費を強いられたりします。

このゴディバの広告に前後して、「うちは義理チョコ制度をやめました」という会社もいくつかメディアに取り上げられていました。暗黙のうちに「女性だから」という理由で負担や我慢を強いられる不条理な状況に光が当たり、もうこんな風習はやめる頃合いではないか、という意見が、女性と男性の両方から出る状況になりつつあるようです。