東宝50周年、本気のラインナップ

ところがそんな景気のいい話なんてあるはずない。あの頃からだいぶ経って、大人の事情を喧伝する奴を大勢知るようになればなるほど、「周年記念」という字面の並びの欺瞞に鼻白んでしまうわけですが、映画会社のマークがフェードアウトして、一拍置いて「何周年記念作品」とか出ると、思わず背筋を伸ばし姿勢を正しちゃうんですよね。芸術祭参加作品とかも。風格が増すというか。

『ガメラ 大怪獣空中決戦』(1995)を作っている途中で、とてもじゃないけど伊藤(和典)さんの書いた脚本(ほん)の通りに実現できないぐらいの予算しかないってわかり、途方に暮れてたときに金子(修介)監督が、「大映倒産25周年記念映画」って出せばいいんだと言ってたけど、そんなことしなくて本当に良かったなと。
※編注:『ガメラ~』は監督・金子修介、特技監督・樋口真嗣

劇場に行かずして我先に映画を嘲り笑う心根の捻れた“映画好き”は、映画が好きなんじゃないんだ…樋口真嗣を淋しい気持ちにさせた、周年記念大作邦画とは!?【『幻の湖』】_2
1981年、老朽化により閉館寸前の日劇。森谷司郎監督『漂流』(1981)がかかっている
©Natsuki Sakai/アフロ

話がズレた。そんな東宝創立50周年記念映画、その年に作られたすべての映画がそう、とは限りません。冠がついたのは以下の5本。

初の日本・オーストラリア合作の戦争大作『南十字星』。監督は丸山誠治。
沖縄戦に散った女学生部隊の悲劇を、1953年作品の今井正監督みずからが再映画化した『ひめゆりの塔』。
数々の名作を世に送り出してきた脚本家・橋本忍が、自身が構想した原作を基に、満を持して21年ぶり3本目の監督作に挑む『幻の湖』。
日本を代表する巨匠の座を手に入れた森谷司郎監督が、撮影・木村大作、主演・高倉健の盤石の布陣で、青函トンネルに挑む男たちを描く『海峡』。
そして谷崎潤一郎原作で、昭和初期の大阪の商家の四姉妹の愛憎を市川崑監督が端正に紡ぐ『細雪』。
どうですか。漫画原作やアニメに頼らなくてもよかった時代の本気の企画たちです。