高齢の母を気遣う〝優しさ〟
このメッセージが届いたのはクリスマスイブ。同日、久志はクリスマスを祝うために母と寿司屋に立ち寄り、そのことを幸子に伝えていた。すると日付が変わったばかりのクリスマス当日に、幸子からこんな温かい言葉が送られた。
「メリークリスマス!私の愛する人。あなたのお母さんはあなたをとても誇りに思っているに違いありません。お母さんの笑顔でそれが理解できます。お母さんは今朝、お元気ですか? 彼女の気分が優れていることを願っています」
母のことまで気にかけてくれる彼女の優しさが身に染みた。以来、合言葉のように「How is mom?」と様子を聞いてくる。被害者の家族への気遣いは、ロマンス詐欺犯に共通する手口だが、そんな犯人側の“歪な親切心”をこの時は知る由もなかった。
久志が照れ笑いを浮かべながら回想した。
「何百回と聞かれました。僕の母のことをこんなにも心配してくれているのかと思ったんです」
話によると、幸子は新潟県沖のガス田開発のプロジェクトに携わっているため、建設された海上プラットフォームに勤めているという。その現場に3か月間滞在し、年を越して翌年1月下旬には新潟から離れるというのだ。
日を追うごとに、幸子からのメッセージには愛情表現が増していった。
「毎日、太陽はあなたを照らし、夜には月があなたを見守っています。私はその太陽や月のようになりたい。毎朝目覚める時と毎晩眠りにつく時、あなたのことを考えていたいと思います。たとえあなたが遠く離れていても、私の心は鼓動しています」
年が明けると久志はデジタル年賀状を幸子に送信し、正月の寒空の下で働いているであろう幸子の体調を心配した。幸子から現場を離れる日付が知らされ、対面がいよいよ現実味を帯びてきた。
「もし私が鳥だったら、あなたのところに飛んでいけるのに」
久志がそう気持ちを伝えると、幸子は返した。
「私が大切な人生を送るために必要なのはあなたの愛だけです。あなたの愛がすべてです」
幸子の声が聞きたくなった久志は電話をかけてみた。だが、「ネットワークが悪い」という理由でつながらなかった。その後も何度か試したが、いずれも不通だった。
海上プラットフォームにいるからだろう。
そう自分を納得させるしかなかった。
後編に続く
後編へつづく:「母の体調が悪い。治療費がいる。お金を返してくれ」
取材・文/水谷竹秀