1ドル200~300円になると輸入物価は1.6~2倍に

そうした信用失墜を回避するために、政府は最後の最後は税収を増やして、財政再建を進めると約束する。万一のときは腹を括くくって、増税をして国債償還の原資を捻出するしかないと、政府は投資家に説明する。信用とは、借金返済は何としても守るという政府の姿勢にかかっている。

反対に、その信用を失ったときは、円安がコントロールできないかたちで進むだろう。長期金利は、日銀が無制限に長期国債を買えば、上昇を封じることは可能かもしれないが、そのときでも円安は進んでしまう。おそらく、相当な「インフレが来る」というシナリオは、円安が大幅に進んだ結果として起こるのだろう。1ドルが200~300円になると、輸入物価は1・6~2倍になるだろう。食料価格とエネルギー価格は、他の品目よりも大きく上がる。

日本の国債は本当に安全なのか? 銀行の立場から考えた「財政不安のメカニズム」_3
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日本の財政運営が信用を失ったとき、通貨が下落するという予想によって、日本の円資産の売却を誘発する圧力が強まる。株安・債券安・円安のかたちで、海外投資家が各種資産を売って、円から別の通貨に資産を避難させる。投機筋も円売りに参加してくるだろう。

そうすると、円安→物価上昇→金利上昇という連鎖が起こる。最後の金利上昇は、日銀が海外への資産逃避を止めるために、政策金利を大幅に引き上げざるを得なくなるからだ。輸入インフレを抑えるための円安対策になる。結果的に、教科書通りのインフレ・金利上昇になるという図式は避けられない。

現に、2022年9月にイギリスの首相として就任したリズ・トラス前首相は、すぐに富裕層向け減税、電気ガス料金の引き上げ計画停止など、極端なポピュリズム政策を打ち出した。折しも、高インフレで、減税は火に油を注ぐ逆効果の政策だった。

それを嫌気した投資家は、英国債を売り込んだ。ポンドも暴落してしまう。市場からの信認を失ったトラス前首相は、当時の財務大臣を解任し、減税策も引っ込めた。しかし、それでは収拾はできず、首相自身も1週間後に辞任した。信用を失うとこうなってしまうのだ。

文/熊野英生 写真/shutterstock

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#3 日本の「財政再建」は信用を維持し続けられるのか? 防衛費の増強など「蟻の一穴」になりかねない歳出拡大の政治的誘惑

#4   気づかぬうちに円資産の価値がどんどん減価している! 日本国民はほぼ不可避、本当に怖い「インフレ課税」

インフレ課税と闘う!
熊野 英生
日本の財政運営が信用を失ったとき、通貨が下落するという予想によって、日本の円資産の売却を誘発する圧力が強まる。株安・債券安・円安のかたちで、海外投資家が各種資産を売って、円から別の通貨に資産を避難させる。投機筋も円売りに参加してくるだろう。  そうすると、円安→物価上昇→金利上昇という連鎖が起こる。最後の金利上昇は、日銀が海外への資産逃避を止めるために、政策金利を大幅に引き上げざるを得なくなるからだ。輸入インフレを抑えるための円安対策になる。結果的に、教科書通りのインフレ・金利上昇になるという図式は避けられない。  現に、2022年9月にイギリスの首相として就任したリズ・トラス前首相は、すぐに富裕層向け減税、電気ガス料金の引き上げ計画停止など、極端なポピュリズム政策を打ち出した。折しも、高インフレで、減税は火に油を注ぐ逆効果の政策だった。  それを嫌気した投資家は、英国債を売り込んだ。ポンドも暴落してしまう。市場からの信認を失ったトラス前首相は、当時の財務大臣を解任し、減税策も引っ込めた。しかし、それでは収拾はできず、首相自身も1週間後に辞任した。信用を失うとこうなってしまうのだ。  文/熊野英生 写真/shutterstock_4
2023年5月26日発売
1,980円(税込)
四六判/344ページ
ISBN:978-4-08-786138-9
もはやインフレは止まらない!
これからの日本経済、私たちの生活はどうなる?

コロナ禍やウクライナ戦争を経て、世界経済の循環は滞り、エネルギー価格などが高騰した結果、世界中でインフレが日常化している。2022年からアメリカでは、8%を超えるインフレが続き、米国の0%だった金利は5%を超えるまでになろうとしている。世界経済のフェーズが完全に変わった!

30年以上、ずっとデフレが続いた日本も例外ではなく、ここ数年来、上昇してきた土地やマンションなどの不動産ばかりでなく、石油や天然ガスなどのエネルギー価格が高騰したため、まずは電気料金が上がった。さらに円安でも打撃を受け、輸入食品ばかりではく、今や日常の生鮮食品などの物価がぐんぐん上がりだした。2021年までのデフレモードはすっかり変わり、あらゆるものが値上げされ、家計にダメージが直撃した。

これからは、「物価は上昇するもの」というインフレ前提で、家計をやりくりし、財産も守っていかなければならない。一方、物価の上昇ほどには、給与所得は上がらず、しかもインフレからは逃れられないことから、これはまさに「インフレ課税」とも言えるだろう。

昨今の円安は、海外シフトを進めてきた日本の企業にとってもはや有利とは言えず、エネルギーや食料品の輸入が多い日本にとっては、ダメージの方が大きい。日本の経済力も、かつてGDPが世界2位であったことが夢のようで、衰退の方向に向かっている。日銀の総裁も植田総裁に変わったが、この金融緩和状況はしばらく続きそうだと言われている。

しかし日本経済が、大きな転換点に直面していることは疑いもない。国家破綻などありえないと言われてきたが、果たして本当にそうなのか?
これから日本経済はどう変わっていくのか? そんななかで、私たちはどのように働き、財産を築いていくべきなのか?
個人の防衛手段として外貨投資や、副業のすすめなど、具体的な対処法や、価値観の切り替えなども指南する、著者渾身の一冊!
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