融資の本質は、相手の信用力にある

日本の賃金フローが、国内貯蓄+経常黒字という状況にあることは、帳簿上で債務超過でない(=自己資本プラス)という状況に似ている。銀行が債務超過でなければ、その企業に必ず融資をするかというと、それは違う。企業の信用次第では、貸さないこともある。貸すとしても上乗せ金利(リスク・プレミアム)をつけて貸す。

仮に、債務超過でなくても、融資をどの銀行からも受けられずに倒産することはあり得る。資金繰りが行き詰まるケースだ。黒字倒産や資金繰り難での倒産は起こり得る。結局、資金仲介は、相手先の信用で決まるということだ。この原理は、国内金融でも、国際金融でも共通して成り立っている。

融資の本質は、相手の信用力であり、帳簿は平時の評価材料の一つに過ぎない。放漫経営をやっていれば、資産が劣化して、融資を続けるのは危険だと見られる。それが信用だ。

日本の財政運営が信用を失ったとき、通貨が下落するという予想によって、日本の円資産の売却を誘発する圧力が強まる。株安・債券安・円安のかたちで、海外投資家が各種資産を売って、円から別の通貨に資産を避難させる。投機筋も円売りに参加してくるだろう。  そうすると、円安→物価上昇→金利上昇という連鎖が起こる。最後の金利上昇は、日銀が海外への資産逃避を止めるために、政策金利を大幅に引き上げざるを得なくなるからだ。輸入インフレを抑えるための円安対策になる。結果的に、教科書通りのインフレ・金利上昇になるという図式は避けられない。  現に、2022年9月にイギリスの首相として就任したリズ・トラス前首相は、すぐに富裕層向け減税、電気ガス料金の引き上げ計画停止など、極端なポピュリズム政策を打ち出した。折しも、高インフレで、減税は火に油を注ぐ逆効果の政策だった。  それを嫌気した投資家は、英国債を売り込んだ。ポンドも暴落してしまう。市場からの信認を失ったトラス前首相は、当時の財務大臣を解任し、減税策も引っ込めた。しかし、それでは収拾はできず、首相自身も1週間後に辞任した。信用を失うとこうなってしまうのだ。  文/熊野英生 写真/shutterstock_2

筆者は、多くの人から、「日本政府はあんなに借金をしていて大丈夫か?」と聞かれることがある。質問者は、何も感情的に不安を訴えているのではないと思う。むしろ、直感の中に信用評価が隠れている。日本政府はあんなに大きな借金を返せるのかと、元利返済の安全性に疑問を訴えている。その安全性について、財政再建を政府は必ず守るから大丈夫だと言えなくては、その疑問は不信に変わってしまう。

先に、「財政不倒神話」の理屈づけとして、③日銀の無制限ファイナンスを挙げた。なぜ、日銀が政府の資金調達をすべて賄うことはいけないのか。その理由は、まさに信用を失うからだ。

売上(税収)がなく、融資だけで資金繰りを回している企業には信用力などない。それに、もしも、政府が日銀資金だけで回っていくのならば、私たちは税金を支払う必要などなくなる。それどころか、年金生活者たちは、毎年の年金給付額を500万円に増やせと要求し始めるだろう。日銀がお札をプリントすれば、円支払いが何でも可能だという世界になる。

それが罷り通り始めると、日銀が根拠なしに発行するお札を増やし続けるだろう。しかし、海外の人はそのお札を額面通りには受け取らない。プリントされたマネーに裏づけがないと考えるからだ。これは円が暴落して、超円安になることを意味する。また、日本国債は額面よりも遥かに安い価格でしか取引に応じられなくなる。これもまた国債暴落を意味する。長期金利はとんでもなく上昇しかねない。