アメリカは「台湾を防衛する義務がある」と牽制

( ハワイ )
台湾の混乱事態収拾と中国の介入阻止のため、アメリカ政府は国連安保理の緊急会合開催を求めた。同時にホワイトハウスの報道官は会見で「台湾関係法により、中国の武力侵攻が発生した場合には軍事力行使も辞さない」と主張した。これには明らかに大統領の決意が反映されていた。

アメリカ海軍は2個空母打撃群をインド洋に展開させていたが、1個群を急遽、太平洋地域に向かわせた。
  
インド太平洋軍司令部報道官は記者会見で、「福建省港湾に確認されている多数のレイバージ(敷設専用船)は大陸側から台湾側への海底パイプライン敷設の準備だ」と指摘した。海底パイプラインは1日あたり約3キロから5キロの進度で敷設することが可能で、台湾海峡140キロを敷設完了するのに1ヵ月程度を要する。大陸から台湾への海底パイプラインは3本だと見積もられた。

インド太平洋軍司令部では司令官以下多数の幹部が参加し作戦会議を行った。

「いま台湾侵攻作戦が開始されたとして、1ヵ月でパイプラインで燃料を送ることが可能になるわけだな」とロバートソン司令官が兵站部長に確認した。
「はい。なお、飲料水は上陸後、台湾本島で確保可能です。食料及び弾薬は海上輸送に限られ、そこが弱点であることに変化はありません」

作戦部長が補足した。

「台湾海峡は水深が浅く、海底は砂で、潜水艦の行動には厳しい条件です。したがって主として空対艦ミサイルや地対艦ミサイルにより補給船を攻撃することになります」
「地対艦ミサイルなど陸上から攻撃できる兵器を早急に台湾に供与する必要がある。国防総省に要望してもらいたい」

作戦会議では、サンディエゴの第3艦隊の1個空母打撃群をハワイまで進めることが決定された。

元陸将が暴露する中国の「台湾侵攻」完全シミュレーション【第2部】台湾、過激派反政府デモで大混乱_5

( 中国 )
中国政府は、人民解放軍に最高度の警戒監視態勢を取らせるとともに、不測の事態に備え東部戦区及び南部戦区に部隊を増援すると発表した。このため両戦区以外の戦区から隷下の合成旅団の派遣を命じた。同じく、人民解放軍予備役部隊に予備役の緊急招集及び2ヵ月以内に80個合成旅団の編成を行うよう命じた。

南京市の東部戦区司令部では司令員の林暁春上将(仮名)が参謀長に準備状況を確認していた。

「貨物船を除き、作戦準備はおおむね予定のとおりです」
「貨物船の徴用は、連合後方勤務保障部隊がまもなく開始する。そうなれば我々の侵攻意図が明白になるな」

○月○日までに、東部戦区に隷下部隊を含めて50個合成旅団、南部戦区に同じく30個合成旅団が集結した。

連合後方勤務保障部隊によって1000トン以上の貨物船・客船が徴用された。船は福建省等の各港湾に集められ、その数は大小1000隻を超えた。

元陸将が暴露する中国の「台湾侵攻」完全シミュレーション【第2部】台湾、過激派反政府デモで大混乱_6
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( アメリカ )
アメリカ政府は米軍の防衛態勢を平時のデフコン5からデフコン3に引き上げた。さらに中国政府に対して「台湾海峡の緊張を高める動きに断固反対する。アメリカは台湾を防衛する義務がある」と牽制した。

インド太平洋軍は、アラスカ州エルメンドルフ空軍基地の第11空軍の2個戦闘飛行隊を嘉手納基地に移動させた。

#1『元陸将が暴露する中国の「台湾侵攻」完全シミュレーション【第1部】中国経済の崩壊、台湾は国連総会に参加申請…』はこちら

#3『元陸将が暴露する中国の「台湾侵攻」完全シミュレーション【第3部】反政府活動で混乱する台湾、中国が夜中に重要施設を攻撃』はこちら

#4『元陸将が暴露する中国の「台湾侵攻」完全シミュレーション【第4部】石垣島への攻撃開始…空港、発電者がダウン』はこちら

『完全シミュレーション 台湾侵攻戦争』 (講談社+α新書)
山下裕貴
2023年4月19日
990円
216ページ
ISBN:978-4065319598
「問題は、侵攻のあるなしではない。それがいつになるかだ」
中国の台湾侵攻について、各国の軍事・外交専門家はそう話す。
中国の指導者・習近平はなにをきっかけに侵攻を決断するのか。
その際、まず、どのような準備に着手するのか。
アメリカ・台湾はその徴候を察知できるのか――。
元陸上自衛隊最高幹部が、台湾侵攻を完全にシミュレーションした!
陸上自衛隊の第三師団長、陸上幕僚副長、方面総監を務めた元陸将・山下裕貴氏は、沖縄勤務時代には与那国島への部隊配置も担当した。中国人民解放軍、米インド太平洋軍、そしてもちろん自衛隊の戦力を知り尽くす。戦地となる台湾周辺の地形も分析し、政府首脳も参加する机上演習(ウォーゲーム)のコーディネーターも務める、日本最高の専門家で、本書はいわば、「紙上ウォーゲーム」である。

中国と台湾を隔てる台湾海峡は、もっとも短いところで140キロもある。潮の流れが速く、冬場には強風が吹き、濃い霧が発生して、夏場には多くの台風が通過する、自然の要害である。
ロシアによるウクライナ侵略では、地続きの隣国にもかかわらず、弾薬や食料などの輸送(兵站)でロシア軍は非常な困難に直面し、苦戦のもっとも大きな原因となった。
中国は台湾に向け、数十万の大軍を波高い海峡を越えて送り込むことになる。上陸に成功しても、その後の武器・弾薬・燃料・食料・医薬品の輸送は困難をきわめる。
「台湾関係法」に基づき、「有事の場合は介入する」と明言しているアメリカも、中国の障害となる。アメリカ軍が動けば、集団的自衛権が発動され、同盟国の日本・自衛隊も支援に回る。
つまり、自衛隊ははじめて本格的な戦闘を経験することになる。
日米が参戦すれば、中国は台湾、アメリカ、日本の3ヵ国を敵に回し、交戦することを強いられる。
それでも、習近平総書記率いる中国は、「必勝」の戦略を練り上げ、侵攻に踏み切るだろう。
そうなったとき台湾はどこまで抵抗できるのか。
アメリカの来援は間に合うのか。
台湾からわずか110キロの位置にある与那国島は、台湾有事になれば必ず巻き込まれる。与那国島が、戦場になる可能性は高い――。
手に汗握る攻防、迫真の台湾上陸戦分析!
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