阿川佐和子さんの「聴き方」の凄味
「以前、あるトークイベントの司会をして菅義偉前首相のお話を聞く機会があったのですが、菅さんって間が長くて待ちきれなくなるところで話し出す方で、最初はその間を独特に感じました。でも、だんだん心地よくなってきたんです。菅さんとのあの時間で、“間”という時間がいかに会話を深め、共有する時間の楽しさを実感させてくれるものだと思いました」
そんな堀井さんは本書の中で「聞く力」の阿川佐和子さんと対談。「改めて聴き方にはいろんなスタイルがある」と思い知らされたという。
「私は人の話を聞くときに自分を一切消して挑むんです。まあそれは、職業柄、台本通りに進めないといけないという縛りもあるからですが、阿川さんはまったくスタイルが違うんです。ご自身が聞きたいことをどんどん聞いて、その言葉によって引き出しが開き、次の質問が浮かんでくるそうなんです。私は完全に自分の中に話のルートをある程度入れてから挑むタイプなので、とても真似できないし、うらやましくも思います。
ただ、スタイルは違えど“この会話を楽しい場にしよう”というのは共通していますし、ひとりひとりにスタイルがあると思いますので、皆さんにも、ぜひ色々な形の聴き方を参考にしてほしいと思います」
堀井さんに、阿川さん以外にも注目している聴き手についても聞いた。
「武田砂鉄さんはすごく聴き方のフックの掛け方が個性的な方でした。彼はインタビューする相手をすごく調べて挑まれるんですが、質問が一言一言、短いんですよ。鋭い着眼点と独特の切り口で聞いてくるから、どんどん喋らされてしまう感じがします。私は自分で質問したのに、何を言ってるんだか自分でもわからなくなってしまうことがあるんですけど(苦笑)、砂鉄さんのように端的に話のフックをかける聴き方はいいなって思いました」
会話というと、どうしても「話す力」がフォーカスされがちだが、実は会話を弾ませるには「聴く力が不可欠」だという堀井さん。自身が“聴くポジション”をつかめば、誰でも会話の中に自分の居場所を見つけることができそうだ。
「喋れない人こそ、相手をちゃんと受け入れて、自分と相手の居場所をしっかりと確保することで会話が円滑に進むと思います。今回の書籍がその参考になれればいいなと思っています」
取材・文/河合桃子 撮影/杉山慶伍