ボトルのラベルにこめられた思い
最後に、鎌倉ワインのラベルについても触れておきたい。そこには、葡萄の女神と葡萄畑がある七里ヶ浜とそこから見える海が描かれている。髪の長い女性が花畑のような場所であぐらをかき、背後には海。かなりカラフルで、イメージされるのはサーフィンの世界である。
率直にいって、安くはないワインのラベルとしてはかなりカジュアルな印象だ。親戚がワイナリーを営む友人とここを訪れた際、彼女も同じ感想だった。同席したドイツ人の友人は「鎌倉というよりタヒチとかグアムのワインかと思ってしまう」とのこと。もちろん海もサーフィンも鎌倉の大切な財産ではあるけれど、私たちはどうしてもこのワインとは合わない気がした。鎌倉の葡萄を鎌倉で醸造するという無謀な取り組みを必ず成功させてほしいので、私たちは夏目さんに「忌憚なき意見」を伝えた。もう少しシックなラベルにした方がいいんじゃない?と。他にも、同じように感じて彼に伝えた鎌倉の飲食関係者もいると聞いた。
しかし、夏目さんは絶対に首を縦に振らない。この絵は茅ヶ崎の女性画家によるもので、自分のワイナリーを持ったら彼女にラベルを頼もうと決めていたという。実際にプロジェクトがスタートしたので、個展に行き、絵を使わせてほしいと頼んだところ、「ワインのラベルを描くのが夢だった。あり物の絵ではなく、新しく描きたい」という返事をもらい、七里ヶ浜の畑の絵が出来上がった。
外野がとやかくいうことではないのかもしれない。
彼の無謀さは、不可能を可能にするし、これまでの常識もひっくり返してしまいそうな気がする。
冒頭でも書いたように「鎌倉ワイナリー」の向かいは、イタリアワインの「オルトレヴィーノ」、この二軒のほど近くには鎌倉が誇るナチュールワインの酒店「鈴木屋酒店」がある。すっかりワイン地区になった。今年もまた、葡萄の収穫の手伝いに行くのが楽しみだ。
写真・文/甘糟りり子