「僕はもう芸人として挫折しているから」

「僕が1番心がけていることは、とにかく時間を守ること」

“時間を守る”……一見当たり前のことのように思えるマイルール。だが、蛍原が時間を守ることを大切にしているのにはこんな理由があるという。

「すごい先輩や同期、後輩を見ていて、僕みたいなのが芸能界で生き抜くためには、最低限時間を守らないとって。大先輩の芸人さんとは違って、僕なんかはまだまだ。いてもいなくてもいいような僕は、せめて時間くらい守らないといけないでしょ?」

今年で芸歴36年をむかえるベテラン芸人は、なぜそこまで謙虚に語るのか。

少し呼吸をして「僕はもう芸人として挫折しているから」と彼は答えた。

「僕たち、お笑い芸人は1度必ず挫折しているんですよ。お笑いを始めて3年目の頃だったかな。明石家さんまさんやダウンタウンさん、(島田)紳助さんに憧れて自分も彼らのように『なれる!』と意気込んで、芸能界に入った。

でも実際に(彼らと)一緒に仕事をしてみると、あまりの才能の違いに『これは無理や…』と気が付いてしまう。そうなったときに、自分にできることは何かを必死に模索したんです。だったら、せめて時間くらいは守らなきゃいけないなと思ったんですよね」

身振り手振りを添えながら話す蛍原徹(撮影/佐藤靖彦)
身振り手振りを添えながら話す蛍原徹(撮影/佐藤靖彦)
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そう力強く話す蛍原だが、「でも遅刻を1度もしたことがないわけではないですけど…(笑)」と現場を和ませる。そうやってスタッフや我々のような取材陣への気遣いを忘れず、しっかり周りを笑わせてくれる彼は間違いなく“お笑い芸人”だ。

「番組は僕だけで作っているわけではないので。他の芸人、スタッフさんがいて初めて面白い番組が作れる。TV番組の収録は、スタジオに入る“入り時間”っていうのがあって、収録の始まる時間まで大体1時間くらいあるんです。

入り時間が14時で、収録のスタートが15時なら、直前の14時50分に来ても、問題はないかもしれません。でもね、『蛍原さん、いつ来るんだろう』と、現場のスタッフを少しでも不安にさせたくない。偉大な先輩たちを見て、僕はああはなれないと諦めたからこそ、常に謙虚でいることを選んだんですよ」