苦労をかけてきたから、好きなことをやらせてあげよう
私は安倍が二度目の総裁選に出馬する一カ月前くらいに、共通の知り合いの誕生パーティーで、久しぶりに昭恵に会った。挨拶で集っている人たちに向けて「昭恵さんは、いずれまたファーストレディーになります」と予言したが、昭恵自身は全くそんなことは考えてもいなかった。
ところが安倍が総裁選に出て勝ってしまった。これでは「UZU」の経営どころではないだろうと、電話で「残念でしたね」と言ったら、「ううん。店はやります!」と言うのでびっくりした。
安倍としては、苦労をかけてきたから、好きなことをやらせてあげようという思いがあったのかもしれない。
あの時、森の言うことを聞いていたら……
「今回、やめたほうがいいんじゃないという意見もあるわよ」
二度目の総裁選の出馬表明前に、昭恵は明確に反対こそしなかったものの、「今回、やめたほうがいいんじゃないという意見もあるわよ」として、こう続けた。
「森(喜朗)先生も、今回の出馬はやめておけと言っていますよ……」
実際、森は安倍自身にも直接こう忠告していた。
「もし今回失敗すると、二度と総裁の芽はないぞ。待てば、必ず安倍待望論が起こる」
森は小泉の後も、安倍ではなく福田康夫に先にやらせようと考えていた。そしてその時も安倍ではなく派閥の長である町村を立てることが頭にあった。
森が言っていることは筋が通っていて、いわば正論だ。森は安倍を信頼していたし、安倍も森を信頼していたが、この時は森の要求をはねのけた。
父・晋太郎が竹下に機会を譲ったために、病に倒れて総理になれなかったことを間近で見ていたため、チャンスがあればそれを逃すまいと考えていた故だろう。