誰もが怪物の側面を持っているという恐ろしさ
しかし、子供たちだけが怪物なのではない。息子の言葉だけを鵜吞みにし、学校に怒鳴り込む早織もまた怪物になってしまっている。
そして保利は生徒思いの教師だったはずが、恋人の鈴村広奈(高畑充希)から「シングルマザーの家庭はモンスターペアレントになりがち」と言われて鵜呑みにし、早織に対して怪物のように接してしまう。
本当は生徒に寄り添ういい校長のはずの伏見もまた、学校を守るために姑息な策を講じ、保利に全責任を被らせるという行動は怪物そのもの。依里をいじめている子供たちも、もちろん怪物だ。
つまり、この映画の登場人物全員が怪物の側面を持っているのだ。
ただ一人、ものすごくわかりやすく描かれている怪物は、中村獅童が演じる依里の父・星川清高だ。男の子のことを好きな息子を化け物と呼び、豚の脳が入っていると言ったのは清高。依里からその話を聞いた湊は、自分も依里に好意を持っていることに気づいて悩み、豚の脳の件を担任から言われた言葉として母親に話したのだ。
自分が信じる“正常”に戻そうと息子に暴力を振るう清高は、まさに最も恐ろしい怪物であることがわかるが、思い込みや守りたいことなどによって、誰もが怪物になり得るということを、本作は伝えている。
誰の中にもいる怪物。その怪物が表に出たとき、どのような結末が待っているのか……。
是枝&坂元が提示した結末は、見る者によってさまざまな捉え方ができるだろう。『怪物』という作品自体が、まさに映画で描かれる複数視点の構図を利用し、観客を巻き込んでいるのが興味深い。
あなたは結末を、どう捉えただろうか?
文/清水久美子
『怪物』(2023) 上映時間:2時間5分/日本
大きな湖のある郊外の町。息子を愛するシングルマザー(安藤サクラ)、生徒思いの学校教師(永山瑛太)、そして無邪気な子供たち(黒川想矢、柊木陽太)。それは、よくある子供同士のケンカに見えた。しかし、彼らの食い違う主張は次第に社会やメディアを巻き込み、大事になっていく。そしてある嵐の朝、子供たちは忽然と姿を消した……。
公開中
監督・編集:是枝裕和 脚本:坂元裕二 音楽:坂本龍一
配給:東宝、ギャガ
©2023「怪物」製作委員会
公式サイト:https://gaga.ne.jp/kaibutsu-movie/