中高年も熱心に応援する小さな街の“市民の娯楽”
男子CLのものとは異なる、2021年に新たに作られた女子CLオリジナルのアンセム(テーマ曲)がスタジアムに流れる。両チームの選手が入場してくると、ほどなく試合が始まったのだが……。
ゲーム内容が、期待していたほどのレベルにないのだ。スコア上は2点を先行されたアーセナルが後半の2ゴールでドローに持ち込むという手に汗握る試合展開ではあったのだが、安易なボールロストとアバウトなクロスと甘い競り合いが随所で見られるのが気になった。
もちろん双方とも主軸を欠いているので本来の姿でないことは百も承知だけれど、女子CLというヨーロッパの頂点を争う大会の準決勝にしては、少々物足りないと言わざるを得ない内容だった。
容れ物(大会運営やプレー環境)の整備に対して、中身(試合レベル)がプロのスポーツ興行として自立できるまであともう一歩のところまで来ているのだが、その最後の詰めがまだわずかに足りないというべきか。
ただし、ヴォルフスブルクの地におけるサポーターと女子サッカーとの絆の強さには、注目すべきものがあった。
当日の入場者数は2万2617人。フォルクスワーゲン・アレーナのキャパシティーの7割以上が埋まった計算になる。試合の数時間前から会場外で客層を観察していたところ、やはり女子サッカーの試合らしく若い女性同士や少女同士、家族連れが目についた。
ところがスタジアムに入ってメインスタンドを見ると、区画の大多数は中高年の男女が占めていたのだ。その彼ら、彼女らはスタメン紹介の段階から会場MCが煽るコール&レスポンスに照れずに参加して大声を出し、試合が始まるとチャントを歌い、しかるべきタイミングでチームマフラーを頭上に掲げた。
ヴォルフスブルクはフォルクスワーゲン社のためにある人口約12万人の小さな街だ。アミューズメント施設といえばフォルクスワーゲンが作った自動車テーマパークの『アウトシュタット』ぐらいで、至近に大都市もない。
だから我が街のサッカークラブ、VfLヴォルフスブルクを男女チーム問わず応援するのが市民の大切な娯楽のひとつであることが、スタジアムの光景からも察せられた。こんなお父さんやお母さん、おじいちゃんやおばあちゃんが家族にいれば、その子供や孫も自然に男女ヴォルフスブルクの試合に足を運ぶようになるだろう。
ホームタウンの規模やスタジアムの収容人数を考えればニュースになるような観客動員を記録するのは不可能だろうが、ヴォルクスブルクもまた、女子サッカーが熱い街なのだった(後編に続く)。
後編 9万人超の観客を集めるバルサ女子戦のチケットは“接待ツール”に!VIPラウンジ、男女平等、ファンサービス…急成長する欧州女子サッカー「強さの理由」に続く
取材・文・撮影/河崎三行