ビッグクラブが続々と女子部門に資金を投入
「確かに収支のバランスは取れてないでしょうね。でも各クラブは今、女子チームの未来に対して投資しているところなんだと思いますよ」
近い将来、稼げるコンテンツに育つことを期待してリスクを取っているというわけか。世の流れからからして、今後女子プロスポーツの観客が増える可能性は十分見込める。理想主義というより、むしろしたたかなビジネス戦略に基づいた強化なのだろう。
となると女子サッカー興行を成り立たせるため、選手の質を高めなければならない。日本では運動センスと身体能力に秀でた少女がなかなかサッカーをプレーしてくれない現実があるが、イングランドではどうなのだろうか。
「女子スポーツの中で最も人気があるのはサッカーです。そして才能のある若い女子アスリートの多くは今、サッカーをやりたがります。イングランドでは他にホッケーやネットボール(バスケットに似た英連邦諸国で盛んな女性向け種目)も盛んなのですが、そうした競技は最終的にプロとして食っていけませんし」
プレスルームを出て、ピッチそばの記者席に腰を下ろす。大盛況のスタジアムを想像していたのだが、見渡してみるとバックスタンド2階席や北側ゴール裏の2階席には空席が目立っていた。
現在の欧州女子サッカー界最強とされるバルセロナを迎え、決勝進出がかかる一戦だというのにこれは意外だった。昨季までWSL3連覇中のチェルシーといえど、華麗なパスワークを誇るバルセロナ相手となると勝ち目はないと諦めたファンが多かったのか?
試合が始まると、やはりボールを支配したのはアウェーのバルセロナの方だった。前半早々にゴールを奪うと、あとは持ち前の自在なパス回しで相手にほとんどチャンスを与えず、そのまま逃げ切った。
チェルシーは速くて強いオーストラリア代表の点取り屋、サム・カーの裏抜け一発頼みの縦パスばかりで、攻撃が単調この上ない。つまり、まだまだクラブの投資に見合うだけの“ゼニの取れるサッカー”になっていないのだ。
ただそれでも、わざわざスタジアムまで足を運んでいるファンの熱量には目を見張らされた。スタンフォード・ブリッジのスタンドには家族連れや女性同士の観客ばかりでなく、男子チームの試合にも足繫く通っていると思しき強面のアンチャンの姿も少なからず見受けられる。
だからバルセロナ側のファールチャージやレフェリーのきわどい判定の際、客席から一斉に沸き起こるブーイングの音圧は、Jリーグの試合でも味わえない本場の迫力に満ちているのだ。日頃からこんな環境でプレーしていれば、WSL選手のメンタルはいやでも鍛えられるだろう。
後半途中に発表された観客数は、2万7697人。見た目より入っていたんだなという印象だった。