コダマさん、何歳でしたっけ?
やがて、右端にいたロングの茶髪で鼠色のジャージを着て、つっかけを履いた子がビール瓶のラッパ飲みを始めました。
ついにコダマさんがキレました。「君、ちゃんとグラスに注いでから飲みなさい」
「うるせーな、おやじ」
「それに、もっと野菜を食べなさい」
「うるせんだよ」
「好き嫌いはダメだぞ」
コダマさんは、未成年飲酒は咎めないのに、なぜかビールの飲み方や偏食は注意するのでした。コダマさんはだんだん怒り始めて、「ガダルカナル島の戦い」の話を始めました。
「いいか、食べ物を粗末にしては絶対にダメだぞ。戦時中は食糧がなくて、ガダルカナル島ではな、雑草を食べたり、ネズミを焼いて食べたりしたんだ。私は……私はねぇ、まるで悪夢を見ているようだったよ。いまの日本は平和だが、私たちは命をいただいているんだ。もっと、命の恵みを大切にしなさい」
「はぁ?」
コダマさんの訓話は、ヤンキー女子高生にはまったく響きませんでした。カミムラ君がそろそろ潮時だと見て、カラオケに行くことを提案しました。
女子高生たちが叫びました。「よし! 歌おーぜ!」
コダマさんは女子高生たちからかなり突っ込まれていましたが、女子高生たちはコダマさんのことを「まあまあオモロイやつ」ぐらいに位置付けていたようです。
僕たちは、ビリヤードとカラオケが一緒になった店に入ることにしました。若者は当然、流行りの歌を歌いまくりましたが、コダマさんは「ここはお国の何百里〜」と軍歌を歌いながら僕の肩を抱きかかえると、「戦友!」と言って号泣していました。
女子高生たちがそういうコダマさんの姿に感動していたかというと、そうでもありませんでした。
さんざん歌いまくって、さんざん飲んで、レジに向かいました。
「なんで割り勘やねん。おっさん、おごってくんねーの?」
「何言ってんだよ、同級生じゃないか」
「チェッ。そんじゃ、またなー」
女子高生たちとは、こんな感じで別れました。
僕は家に帰って「ガダルカナル島の戦い」のことを調べてみました。計算してみると、当時、コダマさんの年齢は六歳でした……。
イラスト・文/チャンス大城
チャンス大城氏写真/朝日新聞出版
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