〔 〕内は集英社オンラインの補注です
くわばたりえちゃん
僕とワダ〔チャンス大城がNSC十三期に入学した際、コンビを組んでいた高校時代からの友人〕は「ビッグママ」というコンビを組んでいました。
僕らのネタは、まったく、ぜんぜん、壊滅的にウケませんでした。結局僕らは、わずか二年で漫才をあきらめることになりました。
本当のことを言うと、僕が漫才をあきらめることになった大きな理由が、もうひとつありました。たぶん、もう時効だと思うので書きますが、僕は同じNSC十三期生のくわばたりえちゃんと交際していたのです。
僕たち十三期生はとても仲がよくて、あちらこちらへ一緒に遊びに行ったりしていたのですが、りえちゃんはものすごく優しい、ふっくらとした喋り方をする人でした。
ある日、例によってみんなで遊んでいると、何かの拍子で、僕の肘がたまたまりえちゃんの体に触れてしまったことがありました。
その瞬間、感じたのです。大阪の女性の懐の深さというか、僕より一歳年下だけど強い母性本能を持ったお姉さんというか、堂々と体を張って生きている人の優しさとあったかさというか……。とにかくもう、感電したみたいに、僕はりえちゃんが大好きになってしまったのでした。
それから何度か、ふたりでデートをしました。
公園を一緒に歩いているとき、あまりにも好き過ぎてタックルをしてしまったこともありました。りえちゃんは、普通に倒れていました。
天王寺動物園には、クレヨンと画用紙を持って一緒に絵を描きに行きました。当時の僕は、同期生の中では「変わったやつ」という位置づけだったので、ちょっと天才ぶっていたのです。
だからりえちゃんに、なんとかして天才っぽいところを見せたいと思って、一緒に象の絵を描きながら、象をピンク色に塗ったのでした。むちゃくちゃをやれば、ピカソみたいな天才に見えると思っていたんです。
象をピンクに塗ったら、「フラミンゴやないねんから!」って、りえちゃんが突っ込んでくれると思っていたのです。
ところがりえちゃんは、「それはそれで、ありやなー」と優しい声で言うのです。
きっと、わざと天才ぶってる僕を傷つけないように、たしなめてくれたんだと思います。りえちゃんは、世間では毒舌女みたいなイメージになっていますが、素顔はとても優しい、大阪の女性らしい人なんです。
あまりにも好き過ぎて、りえちゃんの手に触れることさえできなかった僕ですが、付き合い出してからしばらくたつと、そろそろ何かせないかんなーという焦りを感じるようになりました。