過去の“不倫実績”が裁判では武器に?

さて、こうしたニューヨーク地検の攻勢に、トランプ元大統領側はどう反論するのか? じつはトランプ有罪をめざす地検にとって、障害となりそうな判例がある。オバマ氏が大統領になった2008年の大統領選挙で、民主党の有力候補だったジョン・エドワーズ氏に持ちあがった不倫揉み消し裁判である。

当時、エドワーズ候補はビデオアーティストのリエル・ハンターさんと不倫関係にあり、隠し子も生まれていた。そのため、スキャンダル発覚を恐れたエドワーズ候補は支持者に無心した100万ドルを口止め料としてハンターさんに渡したのだが、これが連邦選挙法違反になるとして検察当局に起訴されたのだ。しかし、裁判では陪審員の判断が割れて評決不能となり、エドワーズ候補は無罪となっている。

評決の流れを変えたのはエドワーズ弁護団の巧みな戦術だった。弁護団は100万ドルの口止め料は「スキャンダルを封じて選挙を有利に戦うためのものでなく、当時、末期がんを患っていたエドワーズ候補の妻に心配をかけないための配慮だった」と主張したのだ。

司法省も追及できなったこの判例はトランプ弁護の最有力法理だろう。事実、トランプ弁護団はこのエドワーズ判決について再三再四にわたって言及している。エドワーズ候補同様、トランプ元大統領はメラニア夫人や家族に迷惑をかけたくなかったので口止め料を支払ったにすぎないという主張には、判例の優位性があると判断している証拠だ。

さらに米司法関係者の間で流れているのが、「弁護団はトランプ前大統領の過去の不倫実績を逆用するのではないか?」というささやきだ。
元大統領にはダニエルさん以外にも数々の不倫疑惑が浮上しており、その度に口止め料を支払ったとされている。

この一見ネガティブな事実を逆手にとり、「トランプ元大統領はことさら2016年の選挙戦を意識して、不倫相手に口止め料を渡したわけではない。トランプ元大統領は常に家族を第一に考え、心配させないために口止め料を渡してきた」と弁護すれば、エドワーズ判決とあいまってさらにトランプ無罪の可能性が開けるというわけだ。まさに逆転の論理みたいな戦法だ。

過去の“不倫実績”をも裁判で逆用⁉ 34の罪で起訴されてもやけ太りを続けるトランプ「大統領返り咲き」の現実味_3
これまでも複数の不倫相手に度々、口止め料を渡してきた事実が裁判ではトランプ氏を後押し⁉

トランプ反撃のもうひとつのポイントは「トランプ氏の指示で13万ドルの口止め料を渡した」と証言したコーエン弁護士の信頼性を剝ぐことだろう。

コーエン弁護士は懲役3年の実刑が確定した連邦選挙法違反の件でもさまざまなウソの虚偽発言があり、証言自体の一貫性もないなど、ツッコミどころ満載の人物だ。トランプ弁護団は「コーエン証言が信頼に足るものでない」と主張することがトランプ無罪を勝ち取るもっとも有効な戦術と考えているはずで、コーエン証言を裁判の中核に据えることに一定のリスクがあることをニューヨーク地検は覚悟する必要がありそうだ。