本音は一体どこにある?
清志郎が世に送り出した“金”にまつわる3つの怪作
「ボスしけてるぜ」RCサクセション
作詞・作曲/忌野清志郎
1980年にシングルとしてリリース アルバム『EPLP』収録
RCサクセションのシングル曲には、強い毒を含むものも多いが、これはその代表格。
安月給で働く“おいら”は、ボスの機嫌のいいある日、勇気を出して「給料を少しあげてくれ」と頼む。
だが、にわかに顔色を曇らせたボスに「俺の方こそ上げてもらいてえなボーズ」と言われてしまう。
そんなボスを恨み、「青春がだいなしだ」と嘆く“おいら”は、次の日、仕事をサボって寝てたのだが、ボスには「腹が痛くて」と言い訳の電話をしてしまう……。
飲み屋で流れると、部下を連れて飲みにきている上司がいたたまれなくなるため、東京の銀座や荻窪の有線放送では、放送禁止措置が取られたというこの曲。
リリースからしばらくののち、日本経済は絶頂期を迎えたが、ご承知のようにバブル崩壊後はまったくパッとせず、庶民の賃金は今も低迷状態が続く。
現代の我々こそ、声高に言っていいのかもしれない。
ボスしけてるぜ!
日本しけてるぜ!
「この世は金さ」RCサクセション
作詞/忌野清志郎 作曲/肝沢幅一
1972年リリースのアルバム『初期のRCサクセション』収録
「金さえあれば この世の物は 何でも手に入れられるのさ
幸福だって女だって 金で買えない物はない
Oh,yes,Oh,yes この世は金さ
金がすべてさ この世は金さ」
作曲としてクレジットされる肝沢幅一とは、忌野清志郎の変名。
フォークトリオとしてスタートしたRCサクセションの、ファーストアルバムに収録されている、のんきな雰囲気の曲だ。
当時のRCサクセションはまるで売れておらず、清志郎も貧乏を極めていたはずだから、これは当然、すっとぼけた態度で、金の亡者を逆説的に揶揄した歌だというのが普通の見方だ。
だけど、いや待てよ……。
もしかしたらそのまた裏をかいて、本音をストレートに歌っているのか?
と、リスナーをあやふやな気分にさせたまま、アルバムの次の曲になだれ込む。
「金もうけのために生まれたんじゃないぜ」RCサクセション
作詞/忌野清志郎 作曲/肝沢幅一
1972年リリースのアルバム『初期のRCサクセション』収録
前出「この世は金さ」が終わった途端、アコースティックギターが激しく掻き鳴らされ、この曲が始まる。
「金もうけのために 生まれたんじゃないぜ
金もうけのために 働くのはいやなのさ
金もうけに疲れて 死んで行くなんて 悲しいことさ」
前曲で“金がすべてだ”とうそぶいた舌の根も乾かぬうちに、拝金主義を声高に批判する清志郎。
ちなみに、この次の曲は「言論の自由」というタイトルで、「本当の事なんか言えない 言えば殺される 言えばにらまれる」と歌う。
これらの曲がリリースされて半世紀以上が経過するが、今の方が貧富の格差は広がり、相互監視と同調圧力もよりひどくなっているではないかと、考えさせられてしまう。