新規事業が当たって普通ならば万々歳だろうが、南園さんは手放しで喜べなかったとか。
「優れた害虫駆除効果があるということは、裏を返すとそれだけたくさんのゴキブリを殺しているということ。これはゴキブリに申し訳ない、なんかせなあかんという気持が自然にわいてきたんです」
懺悔の念がよほど強かったのか、当時、南園さんの夢には度々、ゴキブリが登場するようになった。
「家中がゴキブリだらけになってる夢をよく見ました(苦笑)。その中心にひと際大きい、透き通ったオレンジ色のゴキブリがいましてね。蜂でいうと女王蜂みたいな感じで、不気味に発光しているんです。いや、今話すとアホみたいな話なんですが、その時は、けっこう恐ろしくて(苦笑)」
殺されたゴキブリたちの怨念を感じたわけではないが、南園さんは会社の創立30周年記念事業として、ゴキブリ鎮魂のための供養の像を作ることを決意した。
人間の薄情さをうめあわせたい
制作は 知人を通じて知り合った彫刻家の天野裕夫氏に依頼。 そして1年以上の制作期間を経て、高さ1.6m、重さ約1トンのブロンズ製のゴキブリ像が2000年11月に完成した。
「これだけ大きなものを作るのは簡単でないらしく、富山県にあるお寺の鐘をつくる工場で鋳造したと聞いています。像の名前は作者の天野さんと、この像を設置する林泉寺の住職が話し合って『護鬼佛理天(ごきぶつりてん)』と名付けられました」