作品名もわからずに受けたオーディション
そのオーディション告知が来たのは2021年3月だったが、まったく妙なことに映画のタイトルは伏せられていた。4つの役のオーディションを受けるのに? コロナ禍が始まって以来、リアルのオーディションはない。写真も含めてすべて家で収録する必要があり、おかげでPCスキルが身についた。タイトルがなくたってまあいいかと応募しておき、また次の作品に心を向けた。
数週間後、TVドラマ『Black Monday』に出演していたとき、マネジャーのアーロンからメッセージが来た。
「メール見た? もう読んだ?」
「メール? 撮影中だから見てないよ」
「合格したよ!」
「合格? 『ナルコス:メキシコ編』で?」
Netflixドラマ『ナルコス:メキシコ編』のオーディションを受けたばかりで、とても出演したかったのだ。
アーロンは続けた。
「違う映画だよ!」
「映画ってなんだっけ?」
「デイミアン・チャゼル監督のだよ!」
「ああ! あれか!」
だいたいはTVかCMに出演する仕事をしているので、役を得てから撮影までの期間は短い。2017年に受けたある製薬会社のCMでは、火曜に1次オーディション、日曜に2次、次の火曜には撮影でスペインのマドリッド行き飛行機に乗ったなんてことも。
だが今回は、3月に役が決まってから9月まで撮影を待った。その前に、ありとあらゆる時代の服と小物をそろえたパラマウント社の衣裳部まで出向き、アカデミー賞に輝くメアリー・ゾフレスによる衣裳合わせがあったけど。
かくして、いま、大邸宅でブラッドを待っているのだ。前職ではかなりのA級スターに取材したが、そのリストにも入っていなかった大スターの彼を。