日本特有の「記者クラブ制度」にその遠因がある

社会部記者はこう打ち明ける。
「社会問題を報じる時には、匿名が前提で当事者に取材を受けてもらう機会は少なくありません。事件原稿を扱う時には、特に気を遣います。たとえば事件の捜査状況など機微に触れる情報を警察官や検察官などのネタ元から得て、それを報じる場合には、情報源がバレないように細心の注意を払います。
よく新聞で『関係者への取材で』というくだりが出てくると思いますが、それはオフレコで得た特ダネを報じる際に使う定型フレーズです。これが『捜査関係者』になると、それは当局、つまり警察や検察内部からの情報であると明かしていることになる。情報の共有先が非常に限定されている場合だと、『捜査関係者』のクレジットはネタ元の特定につながりかねないため、基本、使いません。それよりさらに踏み込んで『捜査幹部』とする場合もありますが、これは情報源が特定されるリスクがより高くなる。ただし、ただの『関係者』よりも『捜査関係者』や『捜査幹部』としたほうが記事の信頼性はより上がる、とデスクは判断しがちで、クレジットをどうするかというのは必ず現場で議題に上がることのひとつです」

新聞やテレビの記者たちは、当局の動きを先取りするスクープを打つために日夜取材に励んでいる。ただ、霞が関の各省庁や警察・検察などの当局に張り付く「番記者」たちは、記事を出しておしまい、というわけにはいかない。当局の意に沿わない特報を打っても、番記者としての付き合いは継続せざるを得ない。いかに取材対象者との「付かず離れず」の距離感を保つかに日夜腐心しているのだ。

〈荒井元秘書官発言が考えさせる“オフレコ”って何だ?〉官邸筋、首相周辺…政治原稿のほとんどはオフレコベースだった! 事件取材の『捜査関係者』は警察・検察のこと。他社を出し抜く『飛び降り』は出禁覚悟!_4

「事件取材で、当局に最もいやがられるのは、『逮捕』や『立件』という節目を抜かれること。なので、各社横並びで事件の動きを把握している中で他社を出し抜く『飛び降り』には、特に目を光らせている。だから、記者のほうもなるべく当局に気を遣った体裁を取ります。
たとえば、報じた日が逮捕のXデーだとしても『近く』と時期をぼかしたり、『逮捕』を『本格捜査へ』と表現をぼかしたりするのです。それでも、『前打ち』をしてしまった段階で、一定期間、取材が禁止される『出禁』は覚悟しなければならないのですが……」(前出の社会部記者)

日々、我々が目にするニュースの裏側では、当局と記者とのこうした駆け引きが繰り広げられているわけである。取材する記者たちには苦労もあろうが、そもそも当局との関係性を無視できないのは、日本特有の「記者クラブ制度」にその遠因があるとの指摘もある。

〈荒井元秘書官発言が考えさせる“オフレコ”って何だ?〉官邸筋、首相周辺…政治原稿のほとんどはオフレコベースだった! 事件取材の『捜査関係者』は警察・検察のこと。他社を出し抜く『飛び降り』は出禁覚悟!_5
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インターネットの隆盛もあり、国民からの厳しい視線にもさらされるマスコミ業界。業界全体の斜陽もさけばれる中、現場の記者たちは日々、悩み、葛藤を抱えながら、ニュースを報じ続けている。

取材・文 集英社オンライン編集部ニュース班