海外では「オフレコ」という約束を守れない記者は
記者会見などから追放される
「オフレコ」とは「オフ・ザ・レコード」の略で、録音・録画を認めず、発言内容も実名で報じないことを前提に行う取材のことを指す。日本新聞協会は、その定義について「ニュースソース(取材源)側と取材記者側が相互に確認し、納得したうえで、外部に漏らさないことなど、一定の条件のもとに情報の提供を受ける取材方法」と規定している。
荒井氏の発言に関する報道は、その「オフレコ」の原則に反していたことから、「オフレコを破っても報じるべきだ」とする声がある一方で、「信義に反する」「ルール違反だ」と毎日の報道姿勢を非難する声も上がっているのだ。
たとえば、読売新聞は7日付の朝刊社説で、オフレコの発言が報じられたことを《気がかりだ》とした上で、《本人に伝えれば、オフレコも一方的に「オン」にしても構わないというなら、オフレコの意味がなくなる。取材される側が口をつぐんでしまえば、情報の入手は困難になり、かえって国民の知る権利を阻害することになりかねない》とした。
政界からも異論は出ている。鈴木宗男参院議員は5日、自身のブログに《オフレコの話が表に出るとは人間不信にも繋がる行為であり、お互い考えなくてはいけないことである》と自身の見解をつづった。
元厚労大臣で東京都知事も務めた国際政治学者の舛添要一氏は、過去の自身の経験を引き合いに、ネットメディア「ニュースソクラ」で「オフレコ報道」を批判し、《秘密を守れない人が日本人には多い》とし、《海外ではオフレコという約束を守れない記者は、記者会見などから追放される》と指摘。《政治家や役人は厳しい批判に晒されているが、記者だけはそうではなく、安全地帯にいる》とオンとオフの区別なく政治家の失言を一方的に報じるマスコミの姿勢を断じている。
荒井氏のトンデモ発言を契機に、にわかに勃発したマスコミ報道における「オン・オフ」論争。さまざまな局面で記者が直面する問題でもある。全国紙の政治部記者はこう明かす。
「ニュースのバリューが最も高いのが、実名での報道であることは言うまでもありません。ただ、すべての場面で情報源を明かして記事化することはできません。旧統一教会の問題など、今まさに動きのある政治案件について書く政治原稿のほとんどはオフレコベースになります。文言にも工夫が必要で、まもなく発表になる法案や方針を前打ちする場合、より確度が高ければ『方針を固めた』と打ったり、まだ修正の可能性がある場合には、『最終調整している』などとニュアンスを微妙に変えたりします。
今回の荒井元秘書官の場合も、実名で報じる以外に『首相周辺』と打ったりするケースも考えられる。もっとぼかしたければ、『官邸筋』、さらに秘匿性を高めたければ『消息筋』にしたり、外交分野の記事では『外交筋』にするなど工夫を凝らしています」
こうした取材対象者との距離感とニュースの報じ方について、状況に応じた判断を迫られるのは、政治報道の現場ばかりではない。