自治基本法改正で「住民投票」削除という暴挙

議会が住民投票の拒否という民意無視の決断を下し、その行方は市長に委ねられたが、市長もこの実施義務を履行しなかったために、この問題は裁判闘争に発展した。

「地方自治体の憲法」とも呼ばれる自治基本条例がこの住民投票の根拠となったが、2021年6月28日、石垣市議会はこの自治基本条例から「住民投票」の項目を削除した。委員会での審査手順を踏まずに本会議で採決された。

この提案者も、幸福実現党推薦の友寄市議だった。さらに、石垣市内で講演を行うなどした「自治基本条例に反対する市民の会」の会長は、あの「在特会」でヘイトスピーチを繰り返した人物だった。

「市政に外国人を含むプロ市民や活動家が介入する」自治基本条例改正への世論誘導はこのような、あたかも外国人が市政を乗っとるかのような事実に反する根拠に基づいて行われ、石垣市に属する尖閣諸島の危機と結びつけて語られていた。

住民投票の根拠となる条例は奪われてしまった。民意へのあからさまな狙い撃ちと言ってもいい事態だった。

法廷闘争が継続する中も自衛隊基地建設は「粛々と」進んでいった。

「政府は沖縄を再び戦場にするのか?」自衛隊配備の現場を行く・石垣島編_6
2022年末、石垣島、平得大俣。自衛隊基地建設は猛スピードで進んでいた

2022年末、2年ぶりに訪れた自衛隊基地建設地。様々な問題を置き去りにしたまま工事は進み、完成が近づく。亜熱帯の森の変わり果てた姿に愕然とさせられた。辺野古や宮古島の基地で見られる弾薬庫の姿もあからさまに目視できた。

防衛省はこのミサイル基地を誘導弾基地と説明し、石垣市長も専守防衛を目的とした基地だと議会で答えたが、安保3文書が改正され反撃能力(敵基地攻撃能力)を有することが現実となった今、これらの言説の整合性は曖昧なものとなってしまった。

石垣島に移住し10数年になる、ある男性は言う。

「この島には、集落の人以外が入れない秘祭があったり、神秘的な部分もある。移住した当初はそういうものが怖かったが、この島で暮らし慣れ親しんだ今はむしろ、あの中(基地)のほうが何が行われているかわからなくて怖い」

「基地配備が島民の安全を守る」のか、「基地配備によって島民が戦火に巻き込まれる」のか、多くの人に島民に話を聞いたが、その議論から一歩奥に入ると皆、「台湾有事」や「国防」という大きなテーマの影に地方自治や民意が隠されていくことに不安を感じているようだった。

そこにはやはり「軍隊は住民を守らない」という先の大戦の実体験があるのは明白だった。有事の際の住民避難のロードマップが示されぬ中、防衛省は建設中のミサイル基地に「住民避難の目的はない」ことを明言した。これはこの基地配備が地域住民の安全のためのものではなく、国土防衛のためのものであることを暗に示している。

「自衛隊幹部は【住民の保護は自治体の責任である】としてこの基地が住民を守らないことを明言にしているのに、防衛省や政治家はあたかも住民を守るための基地であるかのように喧伝してきた。この欺瞞は恐ろしい。シェルター建設の話もあるが、防空壕だと素直に言えばいい。時代が逆戻りしただけだ」

石垣在住の60代男性は怒りに震えていた。

「ウクライナとロシアの戦争を根拠に防衛費倍増の世論は高まりましたが、ロシアが最初に攻撃し占領したのは、軍事基地と原発でしたよね。」

石垣在住のある30代の女性は冷静な口調で私に語ってくれた。

沖縄、琉球孤の島々は再び「本土防衛の捨て石」にされる。この疑念を払拭できる説明や合意形成を防衛省や与党政治家は、今も行わないままだ。

危機感のなか、シェルター建設案も話題に上るが、5万人が一度に避難できるシェルター建設には現実味が無い。

住民投票案に賛成したある石垣市議は言う。

「私も確かに中国には怖い面があると思います。しかし、戦争こそもっとも怖いもの、避けるべきものです。私は市議という立場を活かして、自治体単位で台湾や中国に外交し、小さくても個人たちの力で戦争を遠ざける試みを始めていこうと思います」

若き地方議員の眼に勇気を見た。その言葉は玉城デニー沖縄県知事が発表した地域外交室の理念とも一致する。先頃、岸田総理は国防のための「決意」を国民に求めるとの報道があったが、今、この国に生きる我々がするべき「決意」とは、まずこのように戦争を遠ざけるための「決意」ではないだろうか?

「非戦」こそ、最大の国防である。それはこの島々の歴史を正確に理解すれば、明らかなものだ。

私は防衛自体は悪いことだと思わないし、日米安保にも反対していない。しかし、「国防」や「有事」、隣国の「脅威」の名の下に、人々が思考停止し、当たり前の権利や地方自治、民主主主義に関する手続きがないがしろにされる現状もまた「脅威」だと考えている。今、したいのはそういう細かい話だ。果たして住民との合意形成なく配備された軍隊に住民を守ることができるのだろうか。今回の取材を通してあらためて大きな疑問が芽生えた。

「石垣市 住民投票を求める会」の裁判は今年5月に判決予定だ。ぜひ全国から広く注目してほしい。私たちの住む国がこれから何を目指し、何を失うのか、それが露わになる重要な判決になるはずだ。

「政府は沖縄を再び戦場にするのか?」自衛隊配備の現場を行く・石垣島編_7
2022年末、ウーマンラッシュアワーの村本大輔氏、映画監督のミキ・デザキ氏らが石垣島を訪れトークライブをした。普段、なかなか口に出せない基地関連の話題を笑いに昇華し、人々は笑顔にあふれた
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石垣島のミサイル基地はまもなく3月に開所予定だ。運用が始まれば自衛隊関係者約500名がこの島に移り住み、人口の1%を占める。選挙にもこの影響は大きく、防衛省の意に反する民意はより反映されなくなる危惧がある。

私は正月早々、与那国島へ飛んだ。

2015年に自衛隊レーダー基地が配備された日本の最西端、国境の島は、すでに人口の15%を自衛隊関係者が占め、事実上、民意が機能しなくなってしまった。

そこで見た与那国島の地域コミュニティの変容については、また次回に続く。

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