味の変化とゆるやかな時間を楽しめる絶品のスフレ

佐藤さんはフランスから帰国して、2021年9月に自分の店「レガレヴ」を開業した。最初は東京で考えていたそうだが、縁とタイミングで鎌倉に決まったそうだ。あっという間にスフレが話題になり、店の前に行列ができるほどだった。

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あっという間に行列店に

スフレはアーモンドとヘーゼルナッツのプラリネ味。運ばれてくると真ん中にナイフが入れられ、オレンジとバニラとシナモンで香り付けされたキャラメルソースが注がれる。ナッツ、果物、キャラメルとさまざまな味わいが香ばしさを伴って融合し、一つの味覚になっている。添えられるのはブラッドオレンジのソルベ。味の変化とゆるやかな時間を楽しめる一皿だ。

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スフレにはオレンジとバニラとシナモンで香り付けされたキャラメルソースが注がれる
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ブラッドオレンジのソルベとともに

定番はスフレの他、「プロフィットロール」に「クレープ・シュゼット」。
「プロフィットロール」は、シュー生地の中にバニラアイスとバニラクリームを入れ、熱々のチョコレートソースと塩味をきかせたクロッカンをかけて味わう。

「クレープ・シュゼット」はビールで仕込まれたやわらかい生地にオレンジ、発酵バター、キャラメルバニラソースをからめ、グランマニエでフランベするというもの。

甘さではなく、素材の味でもなく、それらがすべて格別なバランスで合わさって生まれるハーモニーがすばらしい。定番以外は季節によってメニューが変わる。
例えば、今ならチョコレート・パフェ。こちらは甘さをほとんど感じない、チョコレートやカカオの味の重なり合いだった。カカオマスというカカオ100%のチョコレートを使っているとのこと。パフェといっても軽やかで、アイスクリームではなくソルベなので乳製品や卵は使われていないと聞いて納得がいった。

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カカオ100%のチョコレートを使ったパフェ

今はメニューにないが、開業当初にこちらで食べた「リ・オ・レ」が忘れられない。「リ」はフランス語で米、オ・レは「ミルクと共に」との意で、ライスプディングのこと。というか、牛乳、生クリーム、バニラ、砂糖で米を煮たものである。濃厚さとさわやかさが絡みあった一品だった。

さまざまな要素が引き合って「レガレヴ」の個性になる

コーヒー好きの私はこうした店でついコーヒーを頼みがちなのだけれど、こちらはお茶が充実している。ダマンフレールの紅茶から始まり、ハーブティーに緑茶ベースのフレーバーティー、ルイボスティー(ノンカフェイン)や烏龍茶といった具合である。チョコレート・パフェを味わった時はシャルダンブルーの紅茶を合わせてみた。新しい美味に出会うと、それにつられて今までの味覚が更新されるのが楽しい。

濃厚さと軽さと、伝統的なものと現代的なものと、フランスと日本と、さらにいえばパリと鎌倉と、さまざまな要素が引き合っているのが「レガレヴ」の個性だと思う。

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バターの香りたっぷりのヴィエノワズリーも並ぶ
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そうそう、佐藤さんはパリにいた頃、テニスの全仏オープンで優勝したナダル選手のお祝いのケーキを作ったことがあるそうだ。テニス・ファンとしては、いつかナダル選手と同じ味を噛み締めてみたいなあ。

写真・文/甘糟りり子

鎌倉だから、おいしい。
著者:甘糟 りり子
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2020年4月3日発売
1,650円(税込)
四六判/192ページ
ISBN:978-4-08-788037-3
この本を手にとってくださって、ありがとう。
でも、もし、あなたが鎌倉の飲食店のガイドブックを探しているのなら、
ごめんなさい。これは、そういう本ではありません。(著者まえがきより抜粋)

幼少期から鎌倉で育ち、今なお住み続ける著者が、愛し、慈しみ、ともに過ごしてきたともいえる、鎌倉の珠玉の美味を語るエッセイ集。
お屋敷街に佇む未来の老舗(イチリンハナレ)、自営の畑を持つ野菜のビーン・トゥー・バー(オステリア・ジョイア)、カレーもいいけれど私はビーフサラダ(珊瑚礁 本店)、今はなき丸山亭の流れをくむ一軒(ブラッスリー・シェ・アキ)、かつての鎌倉文士に想いを馳せながら(天ぷら ひろみ)……ガイドブックやグルメサイトでは絶対にわからない、鎌倉育ちだから知っているおいしさと魅力に出会える1冊。
素材が豪華ならいいというものでもない、店の内装もまた味わいの一端を担うもの、いいバーとバーテンダーに出会う喜び……著者自身の思い出や実体験とともに語られる鎌倉のおいしいものたちは、自然と「いい店」「いい味」ってこういうことなんだな、という読後感をくれる。
版画のように精緻なタッチで描かれた阿部伸二によるイラストも美しく、まさに読んでおいしい、これまでなかった大人のための鎌倉グルメエッセイ。
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