改革開放路線の中での中国映画界の急成長

ゼロ・コロナ施策への反発もかつての中国ではあり得なかったー映画から見えてくる中国の改革開放30年。『シャドウプレイ【完全版】』ついに日本公開_2
『さらば、わが愛/覇王別姫』
Everett Collection/アフロ

中国の改革開放政策は鄧小平の指導の下、文化大革命で疲弊した国内経済を立て直すために1980年代を通じて進められた。1989年の天安門事件で一時停滞を余儀なくされたものの、新たな党総書記に抜擢された江沢民の指導の下、「社会主義市場経済」導入という思い切った舵取りで経済発展に邁進。江沢民が国家主席に就任した1993年以降は、大国への道をひた走っていった。

アメリカから帰国したチェン・カイコーの『さらば、わが愛/覇王別姫』(1993)がカンヌ国際映画祭パルムドール(最高賞)受賞を始めとする国際的成功を収めたのは、まさに中国の大国化への道のりと軌を一にしていた。文化大革命により多くのものを失う主人公を描いても、神経質になって国内上映禁止にしたりしなかったのは、国家としての余裕が中国に生まれていたからだろう。

そして、ジョン・ウー監督の『レッド・クリフ Part I/Part II』(2008/2009)が中国・アメリカ・香港・日本・韓国・台湾合作という枠組みで製作されて大ヒット。ハリウッド映画に一歩も引けを取らないVFX技術、そして大陸的なスケールの大きさを持つ中国映画が、ハリウッド映画に太刀打ちできる可能性が示された。

ジョン・ウー監督の続く『The Crossing ―ザ・クロッシング― Part I/Part II』(2014/2015)では、日中戦争後の内戦の劇化、中華民国政府が台湾へと撤退を余儀なくされる歴史を真正面から描いた。

敗れて台湾へと逃れていく者たちの視点で物語を描くことが許容された背景には、2010年代に入ってからの中国国内における蒋介石復権ムード、そして“ひとつの中国”を唯一の公式な立場として死守したい習近平政権(2013年より国家主席)の立場を支持する枠内での物語だったからに外ならない。

立ち位置さえ守っていれば何を描いてもOK?

製作から5年を経て、ようやく2021年に日本で劇場公開となったチェン・アル(程耳)監督の『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・上海』(2016)は、チャイニーズ・マフィアの興亡を描いたドラマ。『ゴッドファーザー』(1972)や『ワンス・アポン・ア・タイムン・アメリカ』(1984)の中国映画版といったおもむきの傑作だ。もちろん、中国社会の闇の歴史などは、かつての中国映画界ではとても描くことを許されなかったテーマだ。

2020年に公開されたティエン・チュアンチュアン製作、その弟子に当たる女性監督パイ・シュエ(白雪)による『The Crossing ~香港と大陸をまたぐ少女~』(2020)は、親友と一緒に日本へ旅行するためのお金を稼ごうと、危険なバイトに手を染めてしまう女子高生を描いた青春ドラマ。個人的にはその年の外国映画ベスト作品だった。

ポイントは、ヒロインの住んでいる場所が香港と接する大陸側の都市・深圳で、香港の高校に越境通学しているという設定。そして彼女が深みにはまっていくのが、新型iPhoneを香港から大陸へ密輸するバイトだったということ。

つまりこの作品は、青春ドラマであると同時に、大陸側と香港との経済格差や、中国側に否応なく取り込まれていくプロセスの最中にある、香港の闇のビジネスといった極めて今日的なテーマを扱っているのがミソだった。

発展していく社会があれば、当然その裏には個人的にリッチになりたい人々の欲望がある。そんな当たり前の現実を描く犯罪映画であっても、今の中国映画界では全然OKなのだ。唯一、“ひとつの中国”の原則さえきちんと踏まえていれば、だ。