『アフター・ヤン』|持続的で多様性に満ちているが胸に迫らないもどかしさがある【売れている映画は面白いのか|菊地成孔】_1
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『アフター・ヤン』


監督・脚本・編集/コゴナダ 出演/コリン・ファレル、ジョディ・ターナー=スミス、ジャスティン・H・ミン 
TOHOシネマズ シャンテほか全国公開中

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『アフター・ヤン』|持続的で多様性に満ちているが胸に迫らないもどかしさがある【売れている映画は面白いのか|菊地成孔】_2

『コロンバス』のコゴナダ監督が主演にコリン・ファレルを迎え、オリジナルテーマ曲は坂本龍一という布陣で臨んだSF映画。家族同然のAIが動かなくなって知る真実。白人と黒人の夫婦。養子は中国人。その世話をするのは人型AI。未来の家族像にクローンの存在も絡めながら、AIが遺した秘密を丁寧に紡いでいく。『リリイ・シュシュのすべて』の楽曲「グライド」を引用するなど監督の日本映画への傾倒ぶりも印象的。

持続的で多様性に満ちているが
胸に迫らないもどかしさがある

 小津安二郎好きだという韓国系アメリカ人監督、コゴナダの長編第二作。今年紹介したアピチャッポン監督の『メモリア』と同じように、21世紀の映画としての意識が強い作品。もし映画がこれからも発展していくのだとすれば、こんなふうになっていくのだろうな、と思わせる。誰が観てもわかる、サステナブルでダイバーシティに満ちた映画。画もきれいで音楽も素晴らしい。現代的なテーマを取り上げ、新しい映画を作ろうという意欲に満ち満ちているので、映画にパワーがある。

 ただ…シンプルに言うと、感動しない。家族同然のAIヤンが故障して動かなくなった。メモリを取り出してみたら、思いがけない秘密を見つけた。かなりSFな内容だが、人は心に現実的なものとして想像できる引っかかりがないと感動しない。このSFは設定を都合よく好き勝手に更新していくから、感動しようとしてもできない。心が動くきっかけがない。SFでも『ブレードランナー』は感動する。レプリカントも意思さえもたなければ、あんなに苦しまずにすんだのに。こうした思いは現実感からきている。

『アフター・ヤン』は善良な映画で、優しさも悲しさも切々と描いている。しかし作品内のルールが自由自在に書き換えられていくから、胸にじーんとはこない。監督は小津好きなのだから、あまりエモくしたくないのだということは理解できる。だが静かに淡々とやるには、ベースの物語がドラマティックすぎ。白人、黒人、アジア系、そしてAI。血のつながらない者たちが家族を営む様を静かにやるのであれば『万引き家族』になる。とはいえ『SF/万引き家族』をやっても仕方がない。

 実は意外な遺書が遺されていたという難病ものの映画とさほど変わらない。それを無理やり静寂にやっている。あとAIがヤンしか登場しないので、ヤンの独自性が見えず、AIに対するとらえ方もオプティミズムが過ぎる。AIもクローンも共生する未来世界の実像がのぞけずもどかしい。結果西海岸系ヒッピー思想やコミューン感覚の閉ざされた世界になってしまった。

 冒頭のダンスシーンはかなり面白いのだから、ミニマルをやりすぎず、もっと素直にパワフルに撮ればいい。新しさや意欲はある。次作に期待したい。(談)

Text:Toji Aida

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