「離婚もして親が死んで本当につらいのに、
なんでポジティブにならなきゃいけないの?」
――摩季さんの歌はリスナーを元気づける曲が多いですけど、そうすると、歌い手としての摩季さんは、そういう歌を歌うのがしんどいなとか、苦痛になったりすることもあるんですか?
いっぱいありますよ。病んでるボーカリストの大黒摩季がお願いして、作家の大黒摩季に作らせた曲もあります。「ご期待に応えるアゲアゲ」とか「ポジティブの隙間にひとりぼっち」とか、闇の底から叫んだ曲もあって。「離婚もして親が死んで本当につらいのに、なんでポジティブにならなきゃいけないの?」って歌い手が言うと、「そうだよね、その思いを叫んでみよう」って、『SPARKLE』で「使われてばかりの人生なんてごめんだわ」って歌わせたりして。
――本アルバムに収録の『Sing』はまさに、摩季さんの歌い手としての苦悩を歌っていますよね。
私は歌うためだけに生まれてきたんですか? 女として幸せにしてもらえないんですか?って叫びながら歌うなんて、昔のビーイングだったら、いつか出そうねって言われてお蔵入りになってる曲ですよね(笑)。
この歌は特に、LGBTQの方だったり、諦めざるを得ないものを持って生きてきた人にすごく響いてるみたいです。去年11月に東京で介護していた母が亡くなって、今年の正月を迎えて。離婚もしたし、尽くす人がいない正月って、正月じゃないんですよ(笑)。
何もいらないし何も作る気もなく、本当に虚無で、すごく落ち込んじゃって。その正月の3日に、私をオーディションで発掘してくれた初代のチーフマネージャーから電話がかかってきて。「摩季さ、アルバムのリード曲、先に作った方がいいと思うんだよね」って。
こんな時に仕事の話かよ!って思いましたけど(笑)。
「病気で休んだりしたけど、なぜ30年間歌い続けているのか、ファンの人たちも俺も知りたいんだよね」って言われたんですね。私は50歳を過ぎたとき、それまでは期待に応える人生だったから、義務とか責任から解放されて自分のために生きてみようって奮起して。わりとわがままに生きてきたつもりだったんですけど、そう言われた瞬間に、ダム決壊みたいに言葉とメロディーが出て来ちゃって。
涙もぶわーって出て、嗚咽しながら、弾き語りでできたのが『Sing』だったんです。