「一度死んだ気で生きてると楽しいよ」
――え! 今までは楽しくなかったんですか?
相対的に楽しい部分はあるんですけど、お客さんやメンバーやスタッフの中心にいるのはやっぱりボーカリストで、みんなの期待に応える義務があるから、ツアーの終わりが見えてやっと力が抜けてくる感じですよね。大黒摩季はみんなで作るもので、もはや大黒摩季の私物じゃないから、私は強くあらねばならなくて。
ところが、独立して20年が経って大黒組のみんなのクオリティが上がって、やっと私も全部に気を配らなくてよくなったんです。いっつも言ってたの。ライブで早く歌い手だけやらせてよ!って(笑)。
今回のツアーではそれができるようになって、「今日はコンディションがいいからファルセットをここまでつり上げてみよう!」とか、日々、挑戦して新しいものが生まれてるから、絶好調ですね。病気で休む前もそうだったけど、マイクを置く前が一番、楽しいです。やめようと思った時に、愛しくなるんですよね。
――これが最後だと思ったら、大切になるわけですね。
よくMCでも自分のことを「死に損ないのゾンビ」って言うんですけど(笑)。
ムキになって死ぬ気で生きなくても平気よ、死んだ気で生きてると楽しいよってみんなに言っていて。たとえば、コロナ禍で商売がうまくいかなくなったとしたら、一回、終わった気になって始めればいいんだよって言えちゃうぐらい。そういうところに達して、このツアーが終わってアルバムを出したら歌い手としては隠居するぐらいの気持ちで作ったから、こんな盛りだくさんなアルバムになっちゃったっていうことです。
だから歌い手として歌も最高峰を狙ったし、作家としても、大黒摩季に歌わせるんだったらここまでやらせようっていう曲にもなりましたし。
――アルバムを作り上げた今も、隠居する気持ちは変わらないですか?
いやいや、今は、限界にベタっと手が付くまで、全部使い切るつもりです。ツアーもアルバム制作も、明日はないつもりでやってますね。
――作り手としての大黒摩季と歌い手の大黒摩季というのは、デビュー以来ずっと別に存在し続けているわけですか?
そうですね。歌い手の立場が1番弱いんです。だから、いつもシワ寄せが歌い手にくるんです(笑)。実際問題、昔、謎の存在だと言われた頃のとおり、大黒摩季は何人もいますね。歌い手、コーラス、舞台チームの一員でもあって、事務所も自分の事務所だし、今はセルフプロデュースもしてるから。
その中で、1番強いのは作家ですよね。あと、向いてると思います。私は歌い手気質では全然ないです。歌い手ってある意味、エゴイズムがないとダメだし。そもそも私は、作り手である前に大の音楽ファン。自分でやるより、聴いているほうが幸せなんだから。