環七のロイホで明け方まで詞を議論
作詞家の藤林聖子さんが初めて『仮面ライダー』の作詞を担当したのは、2000年に放送された『仮面ライダークウガ』。10年間のブランクを経てのテレビシリーズ復活の作品だった。再出発の大役を任せられた当時を、藤林さんはこう振り返る。
「仮面ライダーはもちろん知っていましたが、子どもの頃の記憶にあるのはどちらかというと『シャリバン』や『ギャバン』などのメタルヒーローでした(笑)。でも作詞をするにあたっては、かつてのシリーズをあえて見直すことはしませんでした。先入観にとらわれず、それまで担当してきたアーティストやアニメの作詞の経験を活かし、当時の自分が持っているものでやってみようと。
かつて大ヒットしたシリーズで、さらに新世紀という節目なのだから、絶対に失敗できないという暗黙のプレッシャーがあったのだなと今ならわかります。振り返ってみると、『クウガ』は生みの苦しみを最も味わった作品で、思い入れの強いものの一つです。
作詞の段階でできあがっていた台本は1、2冊で、2〜4話ほど。ストーリーの展開がわからない中、手探りでの創作でした。打ち合わせをして、書き直す……これを何度も繰り返しましたね。環七通りのロイヤルホストで、夜中の2時からプロデューサーの高寺成紀さん、マネージャーさんたちと集まって明け方まで話し合ったのも今ではいい思い出です」
藤林聖子が“預言者”といわれる理由
作詞した主題歌がのちにストーリーと符合することが多いことから、ファンの間では「藤林聖子は“預言者”」といわれる。序盤のみの台本を手掛かりに、どのように詞の世界観をつくっていくのだろう。
「主題歌の作詞はテーマパークの大枠をつくるようなものではないでしょうか。なんとなく歌詞から書き始めてしまうと全体のイメージがブレてしまうので、まずはタイトルを先に決める。タイトルは、それぞれのライダーを象徴できるように心掛けています。
全体の進行スケジュールの都合で、毎回、渡されるのは台本1〜2冊のみなのですが、それだけの手掛かりでは具体的に核心をついたことは書けません。かといって、抽象的な言葉ばかりでも締まりがなくなってしまう。その加減が難しく、考えに考えた結果、“捉え方によってはこうも解釈できる”という表現に着地することがたびたびあります。プロデューサーさんに、番組が続く中でストーリー展開に困った時は主題歌を聴き直してスターティングポジションを思い出すと言っていただいたりしました」