大手風俗情報サイトのレビューを抽出・分析

守田教授の研究チームがデータ抽出・分析に利用したのは、国内最大規模の風俗情報サイトの口コミ投稿機能。その中でも、今回はソープランドへのレビューに限定して分析を進めた。風俗情報サイトの口コミを利用した背景に関しては、伊東助教は次のように言及する。

「たとえば私が研究所に論理的な申請をして、誰かに性接触の経験を聞く許可が正式に降りたとしましょう。でも対象者に『これまで何人とセックスしましたか?』と聞いたとき、その方は答えてくれるかもしれませんが、『その先も調べたいので、相手の連絡先を教えてください』といったら、それは絶対教えてくれませんよね。技術的にも、プライバシー的にも、情報を集めることは非常に困難です」(伊東助教)

しかしオンライン上の口コミであれば、レビューを書いた男性顧客と対象の女性セックスワーカーを通じて、誰と誰が繋がっているか、というところまでわかってくる。
「従来の調査方法とまったく違うプロセスを採用したところに、大きな性接触ネットワークを構築できた要因がある」と伊東助教は指摘する。

「ソープランドの口コミ情報」が性感染症予防に役立つ? 静岡大学と長崎大学が日本初「性接触ネットワーク」を分析_2
長崎大学熱帯医学研究所国際保健学分野の伊東啓(いとう・ひろむ)助教

このような全国規模の性接触ネットワークの分析は日本で初めての事例となるが、本研究を通して得られたポイントとしては、主に以下の3つが挙げられる。

① スケールフリーの特性を持つこと
② 地域や店舗に依存して高いクラスタリング係数を持つこと
③ スモールワールド性を持つこと

1つ目の「スケールフリーの特性」とは、多くの人々の性接触は少人数(数人以下)に留まるものの、一部には多数の性接触数を持つ人が存在している、ということ。つまり、ほとんどの男性顧客はそれほど口コミを書かないが、一部の人たちが多くのレビューを書き、遠方も含めて積極的にソープランドを利用しているのだ。

2つ目の「高いクラスタリング係数」とは、男性顧客は同じ県内かつ同じ店舗内の複数のセックスワーカーを訪問する傾向があるということ。これに関して、守田教授は次のように説明する。

「クラスタリング係数が高いというのは、要は男性顧客と女性セックスワーカーはランダムに繋がっているわけではなくて、“塊”になって繋がっているということです。私はよく『友達の友達が友達』と表現しますが、女性の好みが一緒だったり、同じ地域に住んでいたりすると、同じセックスワーカーを訪れている可能性が高いのです」(守田教授)

3つ目の「スモールワールド性」とは、複数の県や店舗を跨いでソープランドを訪れる男性顧客が、空間的に離れた地域や店舗を“橋渡し”をすることで、全国の性接触ネットワークを緩やかに繋いでいるということ。このことに関して、伊東助教は次のように話す。

「これはつまり、『世間って狭いよね』ということです。たとえば、北海道と福岡は空間的には非常に離れていますが、1人のセックスワーカーを経由するだけで、2人の男性顧客が繋がるかもしれません。なので、性感染症の話に戻ると、たとえばある地域で性感染症が爆発的に広まったときにも、『うちの近所は安心だね』という解釈には決してなりません」(伊東助教)

このスモールワールド性に関して、構築した性接触ネットワーク上の平均距離を計算したこところ、「9.87」という数字となったそうだ。これはランダムに選ばれた2人が「何人を経て繋がるか」という指標であり、国内のある地域で発生した性感染症が、わずかな人数を経て全国規模に拡散する可能性があることを意味している。

「ソープランドの口コミ情報」が性感染症予防に役立つ? 静岡大学と長崎大学が日本初「性接触ネットワーク」を分析_3
口コミから再構築された性接触ネットワーク。男性顧客(約5.5万人)と女性従業員(約1.7万人)を口コミが繋いでいる