性教育スタートの国際基準は5歳から、なのに…

高橋幸子先生は、現在埼玉医科大学病院にて思春期外来を担当するほか、各種学校で性教育を行っている。一方、新橋みゆ氏は自身の高校時代の人工妊娠中絶の経験を基に、性教育の必要性について国会議員との意見交換会に参加し、政策提言を行うなど積極的に活動する現役大学生だ。

それぞれ異なる立場で性教育の発展に向けて活動するお二人に、人工妊娠中絶や性教育について、日本の実態や海外の制度との比較などをお話しいただいた。

新橋氏(以下、新橋):中絶は、身体的、精神的、金銭的に、女性に大きなダメージがあります。特に精神的なダメージが強かったという声がよく聞かれます。

その内容は後悔が多く、中絶手術から5年が経ってもうつ病など精神的な不調に悩まされている方もいます。当時のケアが十分ではなかったために辛い状況が続いている人、「本当は産みたかったけれど産めなかった」という苦しみを感じている人もいますね。

高橋先生(以下、高橋):実は、日本の人工妊娠中絶を受ける方の数は年々減っています。昭和30年には117万件以上だった件数が、令和2年には約14.5万件にまで減少しています。数値だけを見ると、日本の性教育がしっかり機能しているためであるかのようにも感じられますが、日本の性教育ではそもそも「性行為」について扱わないという課題があります。

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国際的な性教育の指針「国際セクシュアリティ教育ガイダンス」では、5〜8歳の時点で妊娠は計画できるということ、9〜12歳の時点で避妊について、15歳以上では「ちゃんと避妊していても、意図しない妊娠は起こるものであること、サポートにどうつながるか」を学ぶことが望ましいと示されています。

しかし日本では、高校でようやく避妊について学びます。それまでに月経・射精や妊娠・出産・性感染症については学びますが、その中で性交についての学習は一切行われません。日本でも、予定外の妊娠があることを想定した教育や制度、人材の整備が早急に求められるところですね。

妊娠の知識も、中絶の決定権も持たない日本の若者

新橋:若者の実態に合った性教育が足りないことは私も痛感しています。私立の中高一貫校に通っていたこともあり、その6年間の中で初めて性教育を受けるのが高校2年生の3月でした。中絶当時のパートナーは私が妊娠した当時、高校2年生になりたてだったので、避妊についても本当に知識がなかったのです。

それも影響し、当時、彼に避妊をしてほしいと訴えましたが、その重要性を知らなかったがために避妊をしてもらえませんでした。また、中絶を決意したとき、私の親、医師、パートナーに加え、パートナーの親にも中絶の許可を取らなければなりませんでした。私の意思以外に委ねられるところが大きすぎると感じましたね。

高橋:本来ならば、自分の体についての意思決定は自分でできなければいけませんよね。中絶に当たっては未婚の場合、法律上パートナーの同意は必要ないんです。妊婦が未成年の場合は保護者の同意が必要とされることが多いですが、それだけのはず。

今、世界では、一人一人の「SRHR(セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツ=性と生殖に関わる健康と権利)」が守られるべきだという価値観やその動きがとても高まっています。その考え方で言えば、本来は「産むも産まないも、自分の体について周りにとやかく言われる筋合いなんかない!」のです。