謎に包まれていた「性接触」のつながり

これまでプライバシーの問題等により、謎に包まれてきた「性接触ネットワーク」の実態。つまり「誰と誰がセックスをしたのか」ということだが、これをソープランドの口コミサイトに書かれたレビューを用いて、全国規模の性接触ネットワークの構築に成功した研究がある。

この研究は静岡大学工学部・守田智教授を筆頭に、長崎大学熱帯医学研究所 国際保健学分野・伊東啓助教らによって進められた。守田教授は今回の研究のきっかけと狙いについて、次のように話す。

「私は『複雑ネットワーク』という、人をはじめとするいろいろなものの繋がりを、物理学的な側面から研究しています。2000年くらいから、感染症が広がる背景を読み解くには社会のネットワークを考える必要がある、ということが重要視されるようになってきました。
その際、たとえばインフルエンザや新型コロナウイルスでは、『誰から誰に移ったのか』ということが判断しにくい。映画館で感染したかもしれない、くらいはわかるかもしれませんが、実際誰から?というところまではわからないわけです。

その点、性感染症なら、本人にしてみれば『あの人から移ったかも』と具体的な伝達経路に心当たりがあるかもしれません。最初はHTLV-1(ヒトT細胞白血病ウイルス-1型)という病気をテーマとして研究を進めていたのですが、調べていくうちに『性接触自体がどのようなネットワークを形成しているのだろう』と考え、本格的に取り組むことにしました」(守田教授)

「ソープランドの口コミ情報」が性感染症予防に役立つ? 静岡大学と長崎大学が日本初「性接触ネットワーク」を分析_1
静岡大学工学部の 守田智(もりた・さとる)教授
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そこで性接触に関する先行研究を調べてみた守田教授だが、「十分な研究がなされていなかった」という。

「昨今、大規模な社会的ネットワークの研究が進められていますが、こと性接触に関しては、やはりプライバシーの問題もあり十分な研究が行われておらず、その実態は謎に包まれていました。雑誌などのメディアで「これまでの経験人数は何人?」といったアンケート調査もありますが、それが学術的に価値があるかというと、規模的にも少し物足りない。
そこで私たちは、ここ数年で発展してきた性風俗店のレビューサイトの口コミサービスを利用して、しっかりと論文として発表しようと思ったんです」(守田教授)